特定技能外国人の「定着」を日本語教育で支え、現場のギャップ解消に挑む「アルク外国人雇用支援機構」

深刻な人手不足を背景に、日本政府は特定技能外国人の受け入れ枠を2028年までに約80万人へと拡大する方針を打ち出しました。しかし、現場では「試験には合格しているが、実務での日本語が使えない」という構造的な課題も生まれています。

こうした課題を解決するため、語学教育の老舗である株式会社アルクは、特定技能人材の採用・教育・支援をワンストップで提供する「アルク外国人雇用支援機構JESI(ジェシー、https://jesi.alc.co.jp/)」(Japan Employment Support Institute)を立ち上げました。

今回は事業責任者の酒井俊輔氏にインタビューを実施。約40年の日本語教育の実績で培った教育ノウハウと最新のAI技術を掛け合わせ、どのように現場のコミュニケーション不全を解消し、外国人材の自律的な成長と定着を実現していくのか。2026年5月に提供開始予定の新たな学習アプリの全容と、同機構が目指す未来を伺いました

アルク外国人雇用支援機構の立ち上げ背景と役割

ーー新たに立ち上げられた「アルク外国人雇用支援機構」とはどのような組織なのでしょうか。

長年語学教育を行っていた株式会社アルクが、特定技能の方々を中心に採用と教育と支援をパッケージとしてワンストップで提供し、外国人材の採用・教育・定着を運営提案する機関になります。

ーー「アルク外国人雇用支援機構」を立ち上げた背景を教えてください。

元々特定技能や技能実習という領域に、株式会社アルクとしてはあまり関わりがありませんでした。基本的には大手企業様で採用されている技術・人文知識・国際業務の在留資格の社員の方を中心に、オンライン日本語や日本語スピーキングテスト、異文化研修といったプログラムを提供してきました。

しかし、今の日本の少子高齢化や人手不足の状況を見ると、外国籍の方々を積極的に受け入れる流れになっており、政府も特定技能の受け入れを2028年には約80万人に増やすと発表しております。そのため、アルクでは特定技能の方々に対してもしっかり教育を提供し、採用や支援についてもパートナーと組んでサービスを提供し、貢献していきたいというのが設立の背景です。

ーー登録支援機関とは違う立場で、採用から教育、定着支援までを一気通貫で行うということですね。

はい。弊社の役割としては教育の部分を担当し、「採用」「支援」については、他の登録支援機関の方々とパートナーを組んでサービスを提供していきます。

現状、多くの登録支援機関や企業は「採用」や「支援」に注力しがちですが、実際には「教育」がやりきれていないという課題があると考えています。そこにアルクが「教育」を担う専門組織として加わり、継続的に学習できる仕組みを作っていきたいと考えています。

ーーそれでは、特定技能の分野において、アルク外国人雇用支援機構はどのような役割を果たす存在になるとお考えですか。

日本語教育における一番の課題は「試験合格と現場実務の日本語力のギャップ」を解消することです。試験には合格したけれど現場では言葉が使えないという状況を改善することで、外国人の方が職場に馴染み、受け入れ側も仕事を任せられるよう支えていきたいと考えています。

現場での日本語力のギャップとAI学習アプリによる解決策

アルク外国人雇用支援機構webサイトより

ーー具体的にどのような場面でどの程度のギャップがあり、それをどのように解消していくのでしょうか

アルクは長い歴史として日本語教材に関わっています。その中でJLPTのN何級を合格したらそれで十分というような、今後の学習者のキャリアパスまでは考慮されていない教育が主流になってしまっている、という課題意識がありました。LPT中心の学習が主流となっており、実際に日本語を話せるかどうかが十分に測られてこなかったことが大きな課題だったと思います。

政府の動きとして「認定日本語教育機関」があり、その1つの柱が「学習者を社会的な存在として捉える」という目標があります。単に日本語を暗記させて終わりではなく、日本の社会でどういう役割を満たしてほしいか、学校の理念から考えてもらうのが大事です。

そして、実際に就業すると、今まで勉強してきた内容と現場で使われる日本語が少し異なることがあります。JLPTを否定するわけではありませんが、使い道が異なるのです。JLPTはアカデミックな日本語で完璧さが求められますが、実際には動詞の活用が若干間違っていたとしても仕事をうまくできる人はたくさんいます。

その状況を解決するために、実際に使われる日本語をテーマにし、毎日少しずつ練習しながら継続学習をできる、日本語AIアプリのサービスを提供することで、そのギャップを少しでも解消いただきたいと考えております。

ーー現時点では、特定技能2号などに上がるための専門試験対策というよりは、現場での高度なコミュニケーション能力を伸ばす支援というイメージでしょうか。

そうです。日本語が分からないから専門試験の勉強もできないという声を聞いています。まずアプリで自分の持っている知識を使って話せることを重視し、土台を作った上で試験対策に進むという流れを考えています。

ーーこうした現場の課題についてのヒアリングは、どのような組織や団体に行われたのですか。

特定技能に限らず、これまでの実績の中で様々な声を聞いてきました。課題として1番聞くのが、日本に来ても継続学習が定着しないということです。特定技能2号やキャリアを積んでいくためには、まずは基本的な日本語ができることが重要です。基礎がないと、2号もそうですし、日本でもっといろんなことをやりたいと考えた時もキャリアが広がりません。

まずはアプリを使って学習習慣を身に着け、そして、しっかり仕事も覚えられるようであれば、試験も突破できると思います。そこがアルクの日本語教育で貢献できるところだと思っています。

支援団体や、実際に外国の人材を受け入れている会社からも直接お話を伺っております。

定着支援と教育の「質」がもたらす今後の展望

アルク外国人雇用支援機構webサイトより

ーープレスリリースでは、離職した特定技能人材のうち、約7割が入社1年以内の離職であるというデータに触れています。この離職と日本語教育の不足はどのように結びついていると分析されていますか。

どの程度軽減できるかという正確な数字は、現時点では提示が難しいですが、実績はこれから作っていきたいです。

なぜ日本語コミュニケーションが離職に繋がっているかですが、離職者のアンケートや政府の情報では、コミュニケーションやマネジメントに関わることが原因の3割程度出ています。待遇や給与、労働条件もありますが、コミュニケーションにおける割合もかなり高いと考えています。長く日本で就労する上でも、日本語は絶対必要になってきます。

――確かに、日本語が分からない外国籍人材の方が、日本人だけで話しているときに自分たちの悪口を言われているのではないかと不審感を持ってしまうといったコミュニケーションの悩みはよく伺います。

2025年12月15日に外国人雇用支援機構を立ち上げて、幅広くお伺いしたところ、登録支援機関からも企業からも沢山のお問い合わせをいただいています。登録支援機関さんからは「どういう風に教育を組み立てればいいのか」「教育をもっとやっていかなければならない」というお話がありますし、企業側も政府の打ち出しなどを受けて「定着を図るために教育をしっかり提供したい」というお声をたくさんいただいています。皆さんの課題感と我々のやりたいところが一致していると感じています。

ーーアルクがこれまでに培ってきた知見を、具体的にどのように活用されるのでしょうか。

活かせるところは2つあります。1つ目は「質」のです。アルクは40年日本語教育をやってきました。アウトプットをしながらしっかりフィードバックをして改善できる、今までやってきた教育プログラムが提供できる点です。暗記だけでなく、使いながら学ぶことができます。

2つ目は、長く企業研修事業を運営してきて「継続させる仕組み」を持っていることです。どんなに良いプログラムでも継続しなければ意味がないので、アプリの工夫や、企業様や登録支援機関様に対して学習継続の仕組みを提供するノウハウがあります。特に特定技能の方々にとって学習継続支援は重要だと考えており、最後までやり遂げていただけるのが、我々の強みになります。

今までは担当者の方が「勉強してますか」と積極的にアプローチしないと始まらない印象でしたが、アプリで自ら意識して学習してもらうことが長期的な定着に繋がると考えております。また、会社が自分のために何かやってくれていると感じることも大きいです。給与などの条件も大事ですが、同僚と話せることや自分が違う文化から来ていると認めてもらえることが非常に大きく、平等に扱われるだけでモチベーションが上がります。

――学習面においても自立を促していくということですね。日本語アプリについて、一般的なアプリやEラーニングと比べた特徴や、現場で使える日本語を伸ばすための工夫を教えてください。

一番の違いは、学習のまとめとして、AIと実践の練習をすることができる点です。決まった正解を当てるのではなく、シチュエーションで自分が使いたい日本語が適切かどうかを確認しながら練習を進められることができます。その点が従来のeラーニングとの違いとなると考えております。

ーー「学習支援」を標準機能とされるとのことですが、具体的にどのような形で伴走支援を行うのですか。

最初に目標をしっかり立てて、支援機関が進捗を確認し、レベルアップしているかをチェックしていく形です。特定技能1号の滞在期間は5年ありますが、まず目標設定で「どういう日本語を身につけたいのか」の計画を立てます。それに対してアプリや弊社のサービスを使い、支援機関は定期的な面談のタイミングで目標に対してできているかをチェックしていくPDCAを回す形を目指しています。

ーー今後のサービス展開の展望について教えてください。

まずは特定技能を中心と考えていますが、様々な問い合わせをいただいています。特定技能に限らず幅広く企業に働く外国人材の方々に対して、教育を展開していきたいです。

その鍵となるのが日本語AIアプリです。日本語のAIアプリはまだ少ないので、アルクが作り、たくさんの方に学習していただき、そのデータを元にさらに良くしていくことで、外国人の方々の日本語力の底上げをし、外国人の皆さんがイキイキと日本での仕事や生活ができるように支援をしていきたいと考えております。

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