「技能実習」と「特定技能」の特徴とそれぞれのメリットについて

在留資格

【監修】

JAPAN行政書士事務所

小山 翔太

大学卒業後、証券会社勤務を経て独立開業。行政書士として在留資格(ビザ)申請及び外国人雇用コンサルティングを専門とする。特定技能制度及び登録支援機関運営についてのセミナーも多数開催している。

少子高齢化が深刻化していく日本では、労働力、すなわち人材不足が懸念されています。現在も業種によっては働き手が見つからず、早急の対策を迫られている業界も少なくありません。その対策として新たな在留資格である「特定技能」が創設されました。従来の在留資格では行うことのできなかった仕事が可能となり、新たな運用に対する期待が広がっています。

ただし、「特定技能の在留資格があれば、どんな職業にでも就くことができる」というわけではありません。また、以前からある「技能実習」と混同されることもあり、「二つの制度の違いがよく分からない」「特定技能と技能実習、どちらを活用すべきか」という悩みを抱えている企業や担当者の方は少なくないようです。そこで、特定技能と技能実習の二つの在留資格について違いを解説します。

「特定技能」と「技能実習」はどちらも在留資格

「特定技能」と「技能実習」はどちらも在留資格です。在留資格とは外国人が日本に滞在し、なんらかの活動をするために必要となる資格の総称です。そして、在留資格は「出入国管理及び難民認定法」にて定められています。

在留資格は日本国が交付する許可証のようなもので、外国人が日本に滞在するために必要です。ただし、就労が無制限で許可されるわけではありません。在留資格のほとんどは、就労できる業務が限られています。ちなみに1人の外国人が保有できる在留資格は1つのみです。

特定技能とは

特定技能とは2019年の入管法の改正によって導入された新しい在留資格です。「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類に分けられています。詳しい内容について、こちらの記事もご参考にしてみてください。

【2023年6月更新】特定技能とは?取得条件や対象職種を解説
2019年4月より、「特定技能」という新しい在留資格によって外国人労働者を受け入れられるようになりました。この制度を有効に活用できれば、人材不足の課題を打破できる可能性があります。この記事では、特定技能の「1号」と「2号」の違い、取得条件、

特定技能1号

「相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務」を行う外国人向けの在留資格を指します。特定技能1号の要件を満たすにはまた、「技能水準」と「日本語能力水準」をクリアすることが必要です。在留期間は通算で上限5年までとなっており、1年、6ヶ月または4ヶ月ごとに更新が必要です。特定技能所属機関(受け入れ企業)や登録支援機関などのサポートを受けられるものの、家族の帯同は基本的に認められていません。

◆特定技能を取得できる特定産業分野は、以下の12種類

  1. 介護
  2. ビルクリーニング
  3. 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
  4. 建設
  5. 造船・舶用工業
  6. 自動車整備
  7. 航空
  8. 宿泊
  9. 農業
  10. 漁業
  11. 飲食料品製造業
  12. 外食

特定技能2号

「熟練した技能を必要とする業務」を行う外国人向けの在留資格です。特定技能1号よりもレベルの高い技能を用いる外国人が対象となります。特定技能1号を持っている外国人が、業種ごとの所管省庁が定める試験に合格する必要があります。受け入れ企業や登録支援機関などのサポートは対象外となっております。条件を満たせば配偶者と子供の帯同が認められ、6ヶ月・1年・3年ごとの更新を行えば、無期限で日本に滞在し続けることが可能です。

・特定技能2号に移行できるのは2分野のみ

特定技能2号に移行できるのは、「建設」「造船・舶用工業」の2分野のみです。(2023年5月現在)2分野以外では、特定技能2号には移行できません。

特定技能のポイント

・受け入れ人数の制限がない(建設分野と介護分野を除く)
・外部コスト(委託費用など)を抑えやすい
・受け入れ後の事務作業が技能実習に比べ複雑でない(それでも複雑さは残る)
・早期退職の可能性が否めない

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技能実習とは

厚生労働省のページに「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」と記されています。

つまり技能実習制度の目的は、開発途上国等の人に日本の技術を習得してもらい、技術やノウハウを母国に持ち帰って役立ててもらうことです。技能実習は労働力の調達手段として利用されてはならない = “人材不足を補うために利用してはならない”ということです。

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「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」

技能実習法 第3条第2項
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「技能実習」から「特定技能」への移行

特定技能制度がなかった頃、技能実習生が永住権を取得するルートはないものとされてきました。現在は技能実習2号を良好に修了すれば、試験を経ずに特定技能の在留資格を取得できます。特定技能1号から特定技能2号に進み、さらに基準を満たせば永住権取得の可能性がでてきました。

技能実習のポイント

・まとまった期間(3年または5年)雇用を継続できる
・人材の確保がしやすい
・外部コストが高い
・受け入れ後の事務作業が煩雑

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「特定技能」と「技能実習」、5つの違い

ここでは「特定技能」と「技能実習」の違う点を具体的に5つ挙げていきます。

 特定技能技能実習
制度の目的日本の労働力不足解消日本の技術を開発途上国に
広めてもらう国際貢献
就業できる
業種・職種
1号:14業種
2号:2業種
85業種156作業
(2021年5月現在)
受け入れ人数制限原則として
制限なし
人数制限あり
転職について同一職種であれば
転職可能
転職という概念はなく
あるのは転籍
家族滞在可否1号:不可
2号:可能
関わる
組織・団体
登録支援機関監理団体

制度の目的が違う

「特定技能」は日本の労働力不足解消のために、海外の人材を雇用するために導入されました。一方、「技能実習」は日本の技術を開発途上国に広めてもらう国際貢献が目的です。

就業できる業種・職種が違う

「特定技能」で就業できるのは1号が先に挙げた14分野、2号が2分野のみです。「技能実習」は対象職種業種が特定技能よりも多くあります。「特定技能」では良しとされても「技能実習」では良しとされないことや、その逆もあるのでご注意ください。
参考:技能実習制度 移行対象職種・作業一覧

受け入れ人数制限の違い

「特定技能」は原則として受け入れ人数に制限がないのに対して、「技能実習」には制限が設けられています。この違いは、両制度の目的がまったく異なるために生じています。

「技能実習」の場合には目的が「技能移転」であるため、適切に指導が行き渡るよう、受け入れには人数制限があります。一方で「特定技能」の場合は目的が「人手不足を補うため」なので、原則として受け入れ人数に制限がありません。ただし、建設業など、業種によっては制限が設けられている場合があるため、該当業種の企業が受け入れを検討する際は注意が必要です。

転職について

「特定技能」は同一職種であれば転職できます。一方で「技能実習」の目的は就労ではなく実習であることから、転職という概念はなく、あるのは転籍です。実習先の企業が倒産した場合、または技能実習2号から3号へ移行した場合等に転籍できます。

家族滞在可否の違い

「特定技能」の1号を保持している場合、在留資格保持者の家族が日本に在留することはできません。2号を保持している場合、家族滞在の資格で母国から家族を日本に呼ぶことが可能です。
「技能実習」は特定技能1号と同様、家族を母国から呼ぶことはできません。

関わる組織・団体の違い

特定技能外国人の支援業務を委託できる団体は「登録支援機関」です。一方で、技能実習生を受け入れる企業を監理する団体は「監理団体」です。次の項では、この2つの違いについても見ていきましょう。

「登録支援機関」と「監理団体」の違い

「特定技能」と「技能実習」では制度の目的を始めとするさまざまな違いがあることを解説しました。さらに、二つの制度は関係する団体も異なるため、その違いについても見てきます。

登録支援機関とは

特定技能制度では「特定技能所属機関」と「登録支援機関」の2つの機関が重要な役割を果たします。特定技能所属機関をひとことで言い表すと、特定技能外国人の受入れ企業のことです。実際に特定技能外国人を雇用する企業のことを指します。また、特定技能外国人に対して職業生活、日常生活、社会生活において必要な支援を行う必要があります。

ところが、特定技能外国人に対する支援には専門的な内容も含まれており、簡単に実施できるわけではありません。ゆえに、特定技能所属機関が、自ら支援体制を整備できないケースもあります。そのような場合には、特定技能所属機関が、特定技能外国人に対する支援の実施をアウトソーシング(外部委託)します。そのアウトソーシング先が登録支援機関です。

登録支援機関とは特定技能所属機関から委託を受けたうえで、1号特定技能外国人に対して支援を行う機関です。(※2号特定技能外国人に対する支援は義務ではありません。)

登録支援機関に登録を行う対象としては、主に以下のような主体が想定されています。

・技能実習の監理団体
・人材関連事業者(職業紹介会社など)
・士業(行政書士や弁護士、社会保険労務士など)
・その他支援体制が整っている団体や民間法人

出入国在留管理庁長官に対して申請を行い登録が許可されると、個人でも法人でも登録支援機関として活動ができるようになります。そのため、上記以外にも多種多様な主体が考えられます。

監理団体とは

技能実習生を受け入れるパターンは、「企業単独型」「団体監理型」の2種類です。企業単独型は、日本の企業が海外現地の法人や支社、取引先企業などの人材を受け入れて行う技能実習です。団体監理型は協同組合や商工会といった、営利を目的としない団体が技能実習生を受け入れて行うものです。監理団体とは受け入れ企業に代わって技能実習生を受け入れて、監理まで行う組織のことを指します。

企業単独型で技能実習生を受け入れる場合は、受け入れから監理まで企業で行わなければいけません。そのための提出書類が膨大で煩雑であることから、監理団体にサポートを依頼する企業が多くなっております。

監理団体の主な役割はこちらです。

・海外現地の送り出し機関に技能実習の内容を正しく伝える
・技能実習生が受け入れ企業で適切な実習を受けられるようサポートする
・技能実習生を受け入れた企業を監査し、その内容を出入国在留管理局に伝える

監理団体として認められる組織は、農業協同組合、漁業協同組合、商工会議所、商工会、職業訓練法人、中小企業団体、公益社団法人、公益財団法人などです。(参考:監理団体の許可

そもそもの目的が違う

・登録支援機関の目的・・・「特定技能」制度を利用して就労する外国人人材の支援
・監理団体の目的・・・技能実習生を受け入れる企業を監督すること。

監理団体は3ヶ月に1回以上、実習実施者を監査します。その際に指導が必要と判断されれば、実習実施者への適切な指導も行います。登録支援機関は定期面談や報告等は必要ですが、監査・指導といった業務を行う義務はありません。

民間企業や個人事業主でも参入できるか否か

登録支援機関は条件を満たしていれば、営利企業や個人事業主が参入できます。監理団体は営利企業や個人事業主は認可されません。非営利法人である協同組合が中心となって運営しています。

まとめ

日本国内の人材不足を解消するための「特定技能」。日本の技術を開発途上国に伝えるための「技能実習」。どちらも在留資格ですが、目的が大きく異なるまったく別の資格です。目的が異なるため、関わる団体や受け入れ人数に関しても違いがあります。

雇用主となる企業側からは「技能実習は転職ができないから長く働いてくれそう」といった期待もあるかもしれませんが、「技能実習」のそもそもの目的は日本の技術を習得してもらうことであり、労働力の確保ではありません。どちらの制度を活用するにしても、「この会社で働きたい」「ここで頑張りたい」と思えるような体制作りを心がけていくことが大切です。

Linkus(リンクス)では外国人採用に関わる関係者をデジタルにつなぐことで、受け入れ業務を効率化し、制度を十全に活用することを可能にします。技能実習や特定技能の複雑な業務の一括サポートも、ぜひご相談ください。

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