特定技能「宿泊」で海外人材を雇用する際の業務内容や注意点とは

特定技能

【監修】

ON行政書士事務所

長江 修

大手新聞社ニュースサイト制作や企業広報を経て行政書士資格を取得し、2017年に東京・上野にてON行政書士事務所を開業。「皆様の暮らしやビジネスの良きパートナー」であることをモットーに、【在留資格の書類作成・申請取次】をはじめ、【建設業許可】【古物商許可】などの各種行政手続き書類作成・申請代理を中心に展開。最近では【持続化給付金】【家賃支援給付金】などコロナ支援制度の対応も多い。また、経歴を活かし【ホームページ制作】など行政書士以外の業務も取り扱う。

2019年4月に施行された「特定技能」制度の12業種の中に「宿泊」があります。これは日本国内のホテルや旅館、その他宿泊施設の人材不足を解消するために設けられた制度で、以前よりも海外人材を雇用しやすくなったことが特徴です。

しかし、情報がまだまだ行き届いてはおらず、「特定技能制度はうちの宿泊施設も活用できるのか」「どのような仕事を任せられるのか」など、疑問をお持ちの宿泊施設ご担当者さんも多いことでしょう。そこで、この記事ではどのような業務を海外人材に任せることができるのか、さらに海外人材を雇用するために必要な準備や注意点について解説します。なお、【特定技能 宿泊】の採用や在留資格申請のご不明点、Linkusがお答えします。ぜひご相談ください。

宿泊業界の現状について

観光庁の発表によると、2018年および2019年の訪日外国人の数は3,000万人を突破しています。2020年は東京五輪が予定されていたこともあり、訪日外国人数が今後6,000万人を超えることも予想されていました。2020年から現在に至るまで(2021年6月時点)、は新型コロナウイルスの影響を大きく受けていますが、ウイルスに関する状況の変化や、ワクチンの摂取率の上昇に伴って、訪日外国人数も大きく変動していくでしょう。

出典:国土交通省 観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数

それに対して、宿泊業界の受け入れ体制が問題視されています。宿泊施設は年々増加しているものの、ほとんどが東京やその他中枢都市に限られており、地方都市の宿泊施設は減少しているのが現状です。宿泊施設が都市部に集中しているため、人材不足が深刻化しているのも無視できません。

出典:国土交通省 観光庁「観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について

旅館・ホテルの支配人、飲食物給仕係、旅館・ホテル・乗物接客員の合計で求人倍率は6倍を超えています。1人の人材に対して6件以上の求人があるという状態で、人材不足であることがよくわかります。人材不足を補う対策として業務の効率化を狙ってIT化を進める宿泊施設も少なくありませんが、自動化できない部分も多く、どうしても人の手が必要となる場面も多いようです。

このような状況下において、2019年4月より「特定技能」制度が施行され、人材不足が深刻化する14業種で、海外人材の雇用が可能となりました。14業種には宿泊業も含まれており、ホテルや旅館で海外人材スタッフが日本人とほぼ同じ業務に従事することができるようになったのです。

在留資格「特定技能」とは

特定技能とは、日本に合法的に滞在できる資格(在留資格)の1つです。数ある在留資格の中でも、特定技能の資格を持つ外国人は日本国内での現場労働が認められています。特定技能は、中小企業・個人事業主を中心に広がる人材不足の課題を解決するために創設されました。国内人材の確保や生産性の向上といった施策でも人材を確保できない一部の職種について、一定の専門技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく、というのが特定技能創設の趣旨です。

特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があり(2021年6月時点)、宿泊業は「特定技能1号」のみ設定されています。特定技能1号を取得するには、後述する「技能水準」と「日本語能力水準」をクリアする必要があります。在留期間は最大5年までとなっており、原則1年ごとの更新が必要です。受け入れる企業や登録支援機関などのサポートを受けられるものの、家族の帯同は基本的に認められません。

◆特定技能に関して詳しく書かれた記事はこちら>>

【2023年6月更新】特定技能とは?取得条件や対象職種を解説
2019年4月より、「特定技能」という新しい在留資格によって外国人労働者を受け入れられるようになりました。この制度を有効に活用できれば、人材不足の課題を打破できる可能性があります。この記事では、特定技能の「1号」と「2号」の違い、取得条件、

宿泊業においてどのような業務ができるのか

特定技能に関して、観光庁の発表では「宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務に従事する外国人材の受入れが可能。」とされています。

◆フロント業務:
チェックイン/アウト、周辺の観光地情報の案内、ホテル発着ツアーの手配 等

・企画・広報業務:
キャンペーン・特別プランの立案、館内案内チラシの作成、HP、SNS等による情報発信 等

・接客業務:
館内案内、宿泊客からの問い合わせ対応 等

・レストランサービス業務:
注文への応対やサービス(配膳・片付け)、料理の下ごしらえ・盛りつけ等の業務 等
(参考:国土交通省 観光庁「宿泊分野における特定技能外国人の受入れについて 」)

2019年の特定技能制度施行以前は、宿泊業で海外人材を雇用するには「技能、人文知識、国際業務」が一般的でしたが、特定技能制度によってより多くの業務に従事できるようになりました。ただし、全ての業務に携われるわけではありません。国土交通省の発表した資料ではこのように記載されています。

「当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:館内販売,館内備品の点検・交換等)に付随的に従事することは差し支えない」

参考:法務省・国土交通省編「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領

つまり、同様の業務に就く日本人スタッフが従事する内容であれば、関連業務を行うことが可能となりました。ハウスキーピング、ドアマン、宴会用スタッフ、施設内での販売業務、施設内の備品点検や交換、清掃など、幅広い業務などがそれに該当します。特定技能外国人を雇用することで、人材不足を補えるだけでなく、多言語での接客が可能となるメリットも見逃せないポイントです。

ここで注意しなければならないのは、「付随的に従事することは差し支えない」と言及されていることです。特定の業務のみを担当させることはできません。例えば、清掃をメインとするならば、特定技能の14業種内にある「ビルクリーニング」の在留資格を持つ海外人材を雇用する、などです。ちなみに特定技能外国人に対して、風営法に関する接待業務をさせることは禁止されています。ホテル内のクラブやスナックなどで接客をすることがこれに該当します。

外国人が宿泊業分野の特定技能1号を取得するための要件とは

特定技能「宿泊」において受け入れられる海外人材は以下の2つの試験に合格した者、もしくは宿泊分野の技能実習2号を修了した者とされています。

技能試験と日本語の試験を受けるケース

・日本語の能力に関する試験に合格していること:
日本語に関する試験に合格することは、業務に関わる日本語能力水準を満たしていることが証明されます。具体的には「日本語能力試験(N4以上)」または「国際交流基金日本語基礎テスト」に合格していることが求められます。

・宿泊業技能測定試験に合格していること:
宿泊業で必要となる知識や技能を身につけているか、を証明するために宿泊業技能測定試験に合格していることも求められます。この試験は業務に直結した内容が出題されるのが特徴です。
フロント業務、企画・広報業務、接客業務、レストランサービス業務、安全衛生その他基礎知識といった5つのカテゴリーから出題されます。この技能試験は宿泊業技能試験センターが実施するものです。テキストは特に定められていませんが、第1回試験の過去問題は一般社団法人宿泊業技能試験センターのwebページからダウンロードができます。

その他の要件として、特定技能のどの分野でも共通している以下の点も求められます。その理由は日本の法律上、18歳未満の労働者に特別な保護規定が定められているためです。

・日本入国時に18歳以上であること
・保証金または違約金の徴収などをされていないこと
・送り出し国で海外雇用についての規定がある場合、正当な手続きを経ていること

また、海外人材本人やその家族に保証金・違約金の徴収がある場合、日本での活動に支障が出る可能性はゼロではありません。特定技能という在留資格を保持するうえで、こういった徴収等がないことも求められます。さらに、出身国によっては海外で労働するために規定や手続きが必要となる場合があります。正当な手続きを経ているかを確認した方が良いでしょう。

宿泊分野の技能実習2号を修了するケース

令和2年2月25日、宿泊業が技能実習2号の移行対象職種として認定されました。これによって、宿泊業分野の技能実習2号を修了した技能実習生は、無試験で特定技能1号へ移行することが可能となったのです。2020年に認定されたため、今後このケースも増えててくるのではないでしょうか。

特定技能1号外国人として宿泊業企業で働ける期間について

特定技能制度による宿泊業は、在留資格「特定技能1号」のみ設定されています。そのため、日本で就労できる期間は通算5年間と定められていることを忘れてはいけません。5年を超えて雇用し続けることはできないので注意しましょう。また、特定技能外国人1号の場合は、本人の家族を日本に呼びよせて暮らすことは認められていません。採用する前に「契約が5年以内であること」「特定技能制度によって家族を日本に呼ぶことはできないこと」をしっかりと伝えておきましょう。

ちなみに技能実習制度では最大5年年間、日本で働くことができます。技能実習1号から3号の5年間と特定技能の5年間を合わせると、最大10年間働くことが可能です。ひとりの従業員に長く勤めてもらえれば、人材確保や採用、教育に関するコストや工数をカットできるため、受け入れ企業の利益にもつながるのではないでしょうか。

特定所属機関(=受入れ企業)の要件

特定技能1号外国人の雇用に関して、受け入れる企業側にも以下3点の要件が求められます。

・許可された業務に従事させること:
特定技能「宿泊」で許可された業務は先述したとおりです。

・国土交通省が定めた「宿泊分野特定技能協議会」に加入し必要な協力を行うこと:
特定技能外国人1号を受け入れてから4ヶ月以内に、「宿泊分野特定技能協議会」に加入することが義務づけられています。観光庁のサイトにある入会届に必要事項を記入し、郵送してください。

・海外人材に対して支援を適切に行うこと:
特定技能制度を活用して海外人材を雇用するためには、定められた支援を適切に行わなければいけません。受け入れ企業でサポートしきれない場合は、登録支援機関に支援業務を委託します。

◆特定技能所属機関に関する詳しい内容はこちら>>

特定技能所属機関になるために必要とされる条件について
特定技能制度によって、以前よりも多くの外国人人材が日本で働けるようになりました。この制度を活用して、特定技能外国人を受け入れたいとお考えの企業も多いことでしょう。特定技能外国人を受け入れる企業のことを「特定技能所属機関」と言いますが、具体的

◆登録支援機関に関する詳しい内容はこちら>>

登録支援機関とは?役割や登録要件、申請方法についても解説!
特定技能制度の誕生によって、より多くの外国人材が日本国内で働けるようになりました。外国人を雇用する流れは年々増加しており、今後も外国人労働者の数は増えていくでしょう。しかし、特定技能や登録支援機関について深い知識を持っている人や企業はまだま

特定技能「宿泊業」活用の注意点

特定技能「宿泊」分野において、宿泊施設ならばどこでも採用できるわけではないので注意してください。簡易宿泊所や下宿営業、風俗営業法第2条第6項4号に該当する施設での雇用は認められていません。ラブホテルやモーテル等では、この在留資格の海外人材を雇用できないのです。詳しい要件については警察庁の資料をご覧ください。

まとめ

特定技能制度を活用することで、海外人材の雇用が以前よりもしやすくなってきています。しかし、2020年から続く新型コロナウイルスの影響で、試験や採用が思うように進められていないのが現状です。とはいえ、コロナウイルス影響が落ち着いていくとともに、経済や国境を越えた人の行き交いの回復が予想されます。

その際に人手不足に陥らないためにも、事前準備をしておくことは必須ではないでしょうか。人材を確保する手段として、特定技能制度の活用を前向きに検討することをおすすめします。特定技能特化型のプラットフォーム『Linkusでは特定技能外国人の在留資格に関する煩雑な書類作業、採用や管理・支援をサポートするプラトフォームが整えられています。コロナ禍収束を見据えた今後に向けて、ぜひご相談ください。

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