海外人材紹介と雇用の両面から建設業における特定技能外国人の活躍を支援する 「株式会社ダイサン」

インタビュー

建設業は特定技能雇用の分野別の在留外国人数で4位と上位に位置しています。今後もさらなる雇用の拡大が予想されるとともに、建設業界で主力の人材として活躍の場が広がっていっています。今回は、建設用足場の組み立て・解体を主軸事業とし、20年以上にわたり外国人材の受け入れを行ってきた株式会社ダイサンの片山さん、吉田さんに特定技能外国人の雇用状況や育成、今後のキャリア展望などについてお話を伺いました。

長年の外国人材受け入れの実績を生かし、海外人材紹介の活動を開始

ーー まずは、株式会社ダイサンの事業内容と、外国人材の雇用における貴社の取り組みについて教えていただけますでしょうか。

当社は、建設用工事の足場の組み立て・解体を主軸事業としています。特に、自社で製造開発した「ビケ足場」という足場部材を用いた施工が、当社の売上の大部分を占めています。

当社は約20年前から中国を皮切りにベトナム等の国から技能実習の受け入れを行い、外国籍の方と一緒に働く、技術を指導するという知見・経験を積み重ねてきました。現在も技能実習の受け入れを継続するとともに、特定技能の雇用も進めています。最近はインドネシアからの人材が中心となっています。

また、インドネシアの送り出し機関である「PT.MINORI」と当社の合弁会社として、インドネシア現地に「PT DAISAN MINORI INDONESIA(以下DMI)」を3年ほど前に設立し、昨年新たに運転免許取得サービス事業を行っているジップラス株式会社が参画しました。DMIでは、採用した施工スタッフが日本に入国するまでの間、日本の現場での足場の組み方、安全、マナーなどを教育しているほか、日本企業からいただく足場計画図の作成などを行っています。

昨年10月からは、自社だけでなく人手不足に悩む他社様への特定技能外国人の人材紹介事業もスタートしました。

ーー 現在、外国籍の方は、従業員数の中でどのくらいの割合を占めていらっしゃるのでしょうか?

当社全体の従業員数は日本人含めて約660名です。そのうち、技能実習生が約140名実習中です。特定技能外国人が現在約60名働いています。特定技能外国人は、今夏から秋にかけてさらに50名程度の受け入れを予定しており、今後も増加していく見込みです。

国籍の構成としては、約90%がインドネシア人で、その他はフィリピン、ミャンマー、インド、スリランカ、ラオス、ネパールなどとなっています。過去にはキルギスからの受け入れ実績もあります。

ーー 外国籍の方とともに働くという意味では建設業界では技能実習生の受け入れが進んでいましたが、2019年から開始した特定技能雇用も徐々に受け入れが拡大しつつあります。貴社が積極的に外国人材の雇用、特に特定技能外国人の受け入れを始められた経緯やきっかけについて教えていただけますでしょうか?

当社は元々、技能実習制度における「国際貢献」という大義を掲げて外国人材の受け入れをスタートしました。その流れの中で、就労を目的とする特定技能制度への移行は自然な流れでした。特定技能においても国際貢献という意味合いも含め、我々の事業を担う戦力になっていただくべく積極的に受け入れています。特別なきっかけがあったというよりも、これまでの取り組みの延長線上に特定技能があった、というイメージですね。

ーー 長年にわたり外国人材を受け入れてこられた貴社でも、特定技能外国人の雇用において苦労された点や大変だったことはございますか?

建設業界は3Kと言われることから、技能実習から特定技能への転籍希望者が少ない傾向にあり、まず建設業を選んでいただくことに苦労します。技能実習生が母国に戻り、再度入国する際、当社を選んでいただくことも大変です。そのため、当社では特定技能外国人に対する様々な取り組みや制度づくりを進めています。

また、実務的な受け入れや事務処理については、人事総務担当者が対応しています。苦労する点として、国交省の申請認定や入国手続きに時間がかかり、採用した人材がなかなか入国できないという課題があります。

当社としては、支援団体と連携して手続きを進めているため、比較的スムーズに進んでいますが、書類の量が多いため、専任者を置いて対応しています。

また、特定技能外国人は転職が可能であり、総合的な待遇や長期的なキャリアを含めたメリットよりも、現時点の給与の金額が少しでも高いほうを重視する傾向もあるため、「他社のほうが給料が1万円高い」といった理由で転職してしまうケースがあり、定着に向けた取り組みには苦労しています。

そして、新規で特定技能外国人を採用する場合、入国までの教育が大変です。技能実習生は現地での日本語学習のみで入国できますが、特定技能外国人の場合は、日本語能力試験N4以上と、専門知識を問う特定技能評価試験の合格が必要です。建設分野の評価試験の合格率は30%程度と非常に難易度が高く、どのように勉強してもらうかに一番苦労しました。

また、採用された外国人材の入国・就業までのモチベーションをどう維持するかも課題です。先ほどもお話ししたように、各種手続きで6ヶ月程度かかり、教育期間も含めると1年以上かかることもあります。そのため、日本とのオンライン交流会の開催や教育の機会を充実することで、入国まで意欲を保ってもらえるように取り組んでいます。

現地送り出し機関と連携し充実した教育に注力

ーー 入国前の教育の重要性についてお話しいただきましたが、具体的にどのような工夫をされているのでしょうか?

やはり、DMIという合弁会社が現地にあることが強みだと感じています。現地の状況をタイムリーに把握し、何かあればこちらからすぐにアクションを起こすことが可能です。

モチベーション維持のためには、試験に合格することが重要です。そのため、入国までの教育が全てだと考えており、いかに合格率を上げられるかに注力しています。

DMIでは、インドネシア最大の送り出し機関であり、合弁パートナーである「PT.MINORI」と連携しています。年間2,000人ほどの送り出し実績がある「PT.MINORI」の日本語教育ノウハウを提供していただき、日本の生活習慣、インドネシアにはない概念も含めて教える取り組みは非常に重要だと感じています。

また、当社では特定技能評価試験対策として、独自に問題を作成し、定期的に模擬テストを実施して苦手分野を強化するなど、短期間での合格を目指した工夫を行っています。

さらに、入国前講習では、当社の施工スタッフが現地に出向いて1ヶ月間しっかりと日本の現場の仕事を教えています。足場部材の名前や道具の使い方、安全について学び、日本の現場で必要なフルハーネス安全帯の資格や足場の特別教育なども全て現地で取得してもらいます。これにより、日本での仕事のイメージを現地で掴んでもらい、入国後のミスマッチを防ぎ、やる気を引き出すことに繋がっています。

ーー 入国後の教育や支援についても継続して行われているのでしょうか?

はい、入国後も継続して支援を行っています。

キャリアアップに必要な運転免許や足場作業主任者、職長安全衛生責任者教育等の資格取得を支援しており、取得後には手当も支給しています。

また、当社では、毎月1回、安全衛生活動である「安全WEEK」を行っています。安全衛生に対する意識を高めるため、道具の点検や事故防止に関する取り組み・情報共有などを行っており、資料は各国語に翻訳して共有しています。

最近では技能実習生も含め、外国籍の従業員を対象に作文コンクールを実施し、日本語能力の向上を促しています。入賞者には賞金も出るため、モチベーションにも繋がっています。

教育という形とは少し異なりますが、外国人従業員との交流を深めるためのイベントも積極的に開催しています。例えば、当社の設立50周年記念イベントでは、インドネシアの方が好きなフットサルイベントを行ったり、定期的にバーベキューや季節ごとのイベントを実施したりと、業務外の時間でも日本の文化に触れる機会を設けています。

また毎日現場が違うので、自然と日本人スタッフとの交流も生まれています。

ーー 今後、特定技能2号への移行や、外国人材のキャリアアップについて、どのような展望をお持ちでしょうか?

現在、当社の施工スタッフ約500名のうち、40%が外国籍です。来年には50%を超える見込みです。外国人材の増加に伴い、トラックの運転免許がないと厳しいという課題が出てきたため、現在、運転免許の取得をサポートしています。今年だけでも7名が本免許を取得し、さらに10名ほどの取得を予定しています。

私たちが考えているのは、外国人材を「職長」に育て、将来的には特定技能2号試験に合格し、永住権を取得してもらうことです。

職長になるためには、足場作業主任者やフォークリフト、玉掛けなどの様々な免許が必要です。特定技能の5年間でこれらの資格をしっかりと取得してもらい、そのために必要なN3レベル程度の日本語能力の勉強会も定期的に実施しています。

ーー 人材の定着に向けて、どのような取り組みをされていますか?

仕事の強度に見合った給与を支給すること、また、資格取得によるキャリアアップと、それに伴う収入増を明確に示すことが重要だと考えています。キャリアステップを図式で分かりやすく提示し、「この資格を取れば月にいくらもらえるようになる」といった具体的な将来像を見せることで、意欲を高めています。

インドネシアの方々は特に家族を非常に大切にするので、「稼げるようになる」という点が定着に繋がると考えており、当社が一緒に稼げるような教育と現場を提供することに注力しています。また、ご家族の皆様に当社での仕事や日本での生活について知っていただき、安心して送り出していただくこと、応援していただくことを目的に、インドネシア現地で「家族会」を実施しています。「家族会」では足場の組立・解体作業のデモンストレーション、会社や安全への配慮等についてのご説明、実際に働く職場や生活環境の様子をまとめた動画上映などを行い、仕事への理解を深めていただきます。

その他、当社では日本人同様に外国人材にも組織サーベイを実施しています。従業員の声を積極的に吸い上げ、ダイサンで働きたいと思っていただけるような職場環境づくりを進めています。

ーー 生活面でのサポートはどのように行われていますか?

営業所のスタッフが直接生活サポートを行っているわけではありませんが、福利厚生として、社員寮を月1万円で提供しています。これは外国人材からも非常に好評を得ています。また、営業所近隣に社宅を準備し、距離や立地に応じて自転車もしくは電動自転車を支給したり、技能実習生の場合は同じ国籍の方同士を同じマンションに入れるなど、安心して生活できるような工夫もしています。

「他社の給与が1万円高いから転職する」と給与面に敏感であるということは苦労の面でもお話ししましたが、例えば家賃が5万円かかれば、その分の手取りは減ってしまいます。給与以外にかかる費用などは、数字としてうまく伝わりにくい部分でもあり、どのように伝えるかを含めて課題だと感じています。

ーー 外国人材が増える中で、日本人従業員の方々に対して、異文化理解や多文化共生のために何か意識されていることはありますか?

具体的な指導はしていませんが、先ほどもお話ししたように、日々のイベントやコミュニケーションを通じてお互いの文化を知り合う機会を設けています。

当社は20年以上外国人材を受け入れているため、ベテランの日本人従業員は外国人材との接し方を理解しています。会社側が「彼らは大切な戦力だ」と説明を続けてきたことで、今では外国人材との接し方を多くの方が理解してくれています。特に年配の従業員は、外国人材への理解が深いです。

また、異文化理解とは少し異なりますが、外国人材が職長となり、アシスタントが日本人という未来が間近になっているということを社内で伝えています。今後ますます外国人材が増えることが予測されますので、今から理解を求め、垣根をなくしていくことが大切だと考えています。

綿密な準備と継続的なサポートで外国人材と企業の良好な関係を築く

ーー 最後に、これから特定技能外国人の雇用を考えている企業へのメッセージをお願いします。

受け入れ経験のない企業様はまだまだ多く、「どう接したらいいのか」「給料はどうしたらいいのか」「家は用意しないといけないのか」といった戸惑いがあるかと思います。特定技能外国人は日本人と基本的に同じ条件で雇用する従業員ですが、やはり不安はつきものだと思います。

まず、一つは取引先のお客様へ、外国人材を受け入れていることを事前にしっかり説明しておくことが重要です。業種にもよると思いますが、急に外国人の方が来て驚かれることもあるかもしれません。

そして、人事担当者からの意見ですが、入国タイミングによっては、月の生活費が十分でないケースがあるため、生活が困窮しないよう、シミュレーションをしっかり行い、前貸し制度を設けるなど、寄り添ったサポートを考えるべきです。

また、入国前の事前ガイダンスで、どのような仕事をするのかを綿密に伝えることが非常に重要です。日本に来てから「思っていたのと違う」となり、転職されてしまうと、金銭的にも時間的にも大きな無駄になります。技能実習において10年ほど前に入国前講習がスタートするまでは、日本に来ても日本語が分からず、現場でも何も分からず、お互いに戸惑う場面が多く見られました。しかし、現在ではそういったことはなくなり、初日から材料の名前を覚え、業務ができるため、現場での関係性が非常に良好です。

現場での良好な関係性は、いかに入国前の教育をしっかりできたかにかかっています。ただ人を送りこめばいいという考え方は避けるべきです。委託している場合でも、現地でどんなことを学んできているのかを把握しておくことが、トラブル防止や定着に繋がります。企業と外国人材がWin-Winの関係を築くために、綿密な準備と継続的なサポートが不可欠です。

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