工業製品製造業で働く特定技能外国人の支援に関して「自社で支援して外部委託にかかるコストを削減したい」と考えている企業は少なくないでしょう。
支援を内製化(自社支援への切り替え)で得られる利点はコスト面だけでなく、ノウハウの蓄積、信頼関係の構築など様々です。しかし、「実際に自社支援は可能か」「外部に委託した方が安心かもしれない」という懸念も同時にあるかもしれません。
この記事では特定技能【工業製品製造業】での外国人雇用に関する自社支援のステップ、発生する義務や注意点について解説します。なお、特定技能外国人採用に関する疑問点はなんでもLinkusや特定技能アドバイザーにお尋ねください。
特定技能における自社支援とは
特定技能外国人の支援は専門的な内容も含まれており、特定技能所属機関(特定技能外国人の受入れ企業)での支援体制整備が難しいケースもあります。そのような場合に支援を委託(アウトソーシング)する先が登録支援機関ですが、ある程度の期間、特定技能外国人を採用・雇用した後に“支援業務の内製化(自社支援)”を考える企業も少なくないようです。
自社支援に関して、こちらの記事も参考にしてみてください。
登録支援機関への支援委託と、特定技能所属機関による自社支援の最も大きな違いは“コスト”と“業務量”でしょう。雇用側(特定技能所属機関)は外部に委託していた支援(業務)がそのまま自社の業務となりますが、登録支援機関に対して支払っていたコストはそのままカットできます。
自社支援というと特殊に聞こえるかもしれませんが、従業員の管理や要望への対応を雇用企業が実施するのが本来の”雇用”の形ではないでしょうか。国籍を問わず従業員と密に接することで、円滑なコミュニケーション・信頼関係の構築、雇用/管理に関する社内ノウハウの蓄積、安定した特定技能外国人採用/雇用(定着率UP)なども想定されます。
一方で懸念すべき点は、通常業務に支援業務が上乗せされる、特定技能や支援の専門知識を要する、ノウハウ獲得に時間が必要など。とはいえ、支援の外部委託費をカットできるという大きなメリットがあるため、特定技能所属機関が自社支援をする、または自社支援に切り替えるケースが増えています。
特定技能【工業製品製造業】外国人の受け入れ準備
特定技能外国人材の採用プロセスで最初に必要となるのは、契約の締結・在留資格申請・各種届出です。特定技能外国人を雇用する際、“特定技能雇用契約”の締結が必要です。契約書に求められることは、一般的な雇用契約に関する内容に加えて、通常の日本人労働者との間に報酬・待遇・労働時間の面で差がないことの他、一時帰国や有給休暇についてなど。外国人本人が理解できるよう、本人の母国語で作成するケースもあります。詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。
自社支援体制の構築
自社支援の体制を整えるために必要な項目について解説します。
通訳者と支援担当者の設置
自社で支援する場合、通訳者が社内にいなければ雇用する必要があります。この場合の雇用は正規雇用(フルタイム)だけでなく、パートタイム(アルバイト)や業務委託も認められています。支援責任者・担当者は特定技能外国人が所属する部署以外に配置することが義務付けられています。
支援計画の策定・実施
特定技能外国人が日本で不安なく仕事を行い生活するために、受け入れ企業には義務的支援が求められています。(義務的支援の対象は特定技能1号外国人で、特定技能2号外国人に対しては義務とはされていません)義務的支援に不履行があった場合には処罰の対象となります。
- 事前ガイダンス
- 入国時や帰国時の送迎
- 住居の確保(連帯保証・社宅の提供など)、日常生活に必要な契約(銀行口座・携帯電話・ライフラインなど)に関する手続きの案内や補助
- 生活オリエンテーション(日本での生活のルールやマナー、公共機関の利用法などについて)
- 公的手続きへの同行、公的書類作成の補助
- 日本語学習の機会の提供
- 外国人が十分に理解できる言語での相談・苦情対応
- 日本人との交流促進(地域住民との交流の場への案内、参加の補助など)
- 受け入れ側の都合で雇用を解除する場合の転職支援(転職先探し、推薦状作成、求職活動のための有給付与など)
- 外国人やその担当上司との定期的な面談(3か月に1回以上)、必要に応じた通報
また、任意的支援は義務的支援に加えて行うことが望ましいとされる支援です。
- 事前ガイダンスに関する任意的支援
- 住居確保や生活に必要な契約に関する任意的支援
- 生活オリエンテーションに関する任意的支援
- 日本語学習の機会の提供に関する任意的支援
支援計画に記載するかどうかは任意ですが、記載した場合には実施の義務が生じることに注意が必要です。詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。
自社での管理と運用
特定技能外国人を雇用する際、「申請書類作成がとにかく大変」「複数人を同時管理して混乱をきたす」「情報共有やコミュニケーションが煩雑」など課題は少なくありません。そういった中で自社管理システムを導入する企業が増えています。
ITツールLinkusの活用
Linkusとは特定技能特化型の支援業務管理システムのこと。申請書類や各種届出の作成、人材プロフィール管理から業務の進行管理、帳簿・管理簿の自動生成、期限のアラーム管理など、面倒だった作業をデジタル化して、登録支援機関や自社支援をする雇用企業向けにソリューションを提供しています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
現在は支援業務の内製化コンサルティング『特定技能アドバイザー』も運営しています。特定技能や自社支援に関するご不明点はなんでもご相談ください。
支援プログラムの効果的な運用と継続的な改善
この項では自社支援の効果的な運用と継続的な改善について解説します。
コミュニケーションの強化
出入国時の空港への送迎、生活に必要な契約の支援やオリエンテーション、相談や苦情への対応など、特定技能外国人の支援は、企業と特定技能外国人とのやり取りを密にすることが必要です。その結果として、社内でのスムーズなコミュニケーション・信頼関係構築のきっかけとなるでしょう。
特定技能という在留資格かそうでないかという以前に、“一人の社員”として企業が直接サポートしていく姿勢が企業文化の浸透や現場でのサポート力強化を実現させるのではないでしょうか。信頼関係が構築されることは従業員の定着率アップにもつながり、結果として採用コストも抑えられるとも考えられます。
工業製品製造業におけるキャリアパスの構築
特定技能1号としての通算在留期間(5年間)が満了した後は、特定技能1号としての就業が継続できません。それ以降も特定技能外国人が日本に在留するには特定技能2号に移行することが必要です。2号に求められる業務内容は、実務経験等による熟練した技能を習得しており、現場の作業者を束ねて指導や監督ができることです。
特定技能2号に求められる技能水準についてはこちらを参考にしてみてください。
技能水準に関する試験や検定のための支援は義務ではありませんが、国籍を問わず会社の一社員に継続して働いてもらうためのキャリアをサポートすることは、定着率UPや円滑な業務に繋がることでしょう。長期的な視点から見ると会社の利益につながると考えられます。
特定技能【工業製品製造業】とは
最後に、特定技能【工業製品製造業】について簡単に解説します。
特定技能外国人の概要
特定技能には1号と2号の区別があります。特定技能1号外国人には1年間、6か月間、4か月間のいずれかの在留期間が付与され、在留資格更新の申請により通算で5年まで在留することができます。失業期間や育児・産前産後休暇、労災による休暇の期間なども通算在留期間に含まれます。特定技能2号外国人は3年間、1年間、6カ月間のいずれかの在留期間が付与され、更新の上限がありません。
参考:特定技能外国人受入れに関する運用要領/ 令和6年9月 出入国在留管理庁
技能実習との違い
技能実習制度は日本の技能・技術・知識を外国人に吸収してもらい、帰国後に現地で活用してもらう技術移転を目的としており、日本における労働力の需給調整の手段として用いられてはならないとされています。対して特定技能制度の目的は即戦力となる外国人材の受け入れです。
ただし、同じ仕事内容の技能実習2号を修了した外国人本人が希望し、特定技能所属機関も受入れ可能である場合は、無試験で特定技能に移行し、特定技能1号外国人として就業できる可能性があります。
在留資格の要件
外国人が特定技能1号【工業製品製造業】の資格で業務に従事するためには、日本語試験と技能試験の両方に合格するか、同様な業務内容の技能実習2号を良好に修了している必要があります。特定技能2号【工業製品製造業】に求められる技能水準は、製造分野特定技能2号評価試験ルートと技能検定ルートに分けられます。
特定技能所属機関に求められる要件と注意点
◆特定技能外国人の支援体制の整備
特定技能所属機関は、受け入れる外国人に対し、事前ガイダンスや入国時の送迎、住居確保・ライフライン契約手続きなどのサポート、生活オリエンテーション、日本語学習機会の提供などの支援を提供する義務があり、あらかじめ策定した支援計画に基づいて支援を適切に実行することが求められます。
◆製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会への加入
『製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会』は、製造分野の特定技能制度のための情報共有、課題把握と対応策検討、外国人受入れの地域差の抑止などを目的とする組織です。経済産業省を初めとする省庁、特定技能所属機関、自治体などで構成されます。
特定技能所属機関になろうとする企業は協議・連絡会に加入し、協議・連絡会による指導や調査に協力する義務があります。出入国在留管理局への在留申請時には加入が完了している必要がありますが、加入手続きには時間を要するため、特定技能外国人の受入れを決めたらすぐに手続きをされることをおすすめします。
◆外国人受入れが認められないケース(欠格事由)
以下のような事由に該当すると、外国人受入れが認められない場合があります。
- 労働法、社会保険関係法令、租税関係法令、出入国関係法令を遵守していない
- 特定技能外国人が担当することになる業務に従事していた従業員が、過去1年以内に会社都合で解雇されている
- 過去1年以内に、受入れ機関の落ち度で外国人の行方不明を発生させている
- 過去5年以内に、技能実習の認定を取り消されたことがある
まとめ
工業製品製造業においては人手不足が進行しており、人材確保のための手段として、デジタル化や女性・高齢者の雇用促進などと並んで特定技能の制度の活用が期待されています。
特定技能外国人を雇用する際、様々な義務的支援が求められます。登録支援機関に委託せず自社で行うことは最初は簡単ではありませんが、ひとつずつ確認・実行していくことが大切です。自社支援という経験を通してノウハウが蓄積されることも大きな利点と考えられます。この記事で挙げたメリットや成功例以外にも、企業によって得られる成果は様々あるでしょう。特定技能外国人採用に関する疑問点はなんでもLinkusや特定技能アドバイザーにお尋ねください。