【監修】
小山 翔太
大学卒業後、証券会社勤務を経て独立開業。行政書士として在留資格(ビザ)申請及び外国人雇用コンサルティングを専門とする。特定技能制度及び登録支援機関運営についてのセミナーも多数開催している。
特定技能制度は、国内での人材確保が困難な業種において即戦力となる外国人を受け入れるための制度です。自動車整備業では整備士の不足や平均年齢上昇が続いていることから、特定技能「自動車整備」による外国人の受入れが制度化されました。
この記事では、国が策定した運用方針[1]や運用要領[2]をもとに、特定技能「自動車整備」について解説していきます。なお、【特定技能 自動車整備業】の採用や在留資格申請のご不明点、Linkusがお答えします。ぜひご相談ください。
[1] 国土交通省「自動車整備分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」
[2] 国土交通省「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-自動車整備分野の基準について-」
特定技能「自動車整備」とは
特定技能「自動車整備」は自動車整備業の人手不足を背景にして創設された制度で、自動車整備の基本業務において即戦力となる人材を外国から獲得することを目的としています。
国内の自動車保有台数はほぼ横ばいで推移しており、自動車整備の需要も現在と同程度の水準が当面の間は維持されるものと予想されるなか、自動車整備業界では人手不足が深刻化しています。
国土交通省自動車局の資料[3]によると、自動車整備業に従事する整備要員(自動車整備士など)の数は約40万人で、自動車保有台数と同様にほぼ横ばいで推移していますが、求人倍率の方は平成23年度には1.07だったものが平成29年度には3.73と大きく上昇しており、全職種平均の上昇率に比べてかなり急激なカーブを描いています。
原因としては、若年層の車離れが進み、自動車整備士を目指す若者が減ったことが挙げられます。自動車整備要員の平均年齢は年々上昇しており(平成17年度40.5歳→平成30年度45.3歳)、引退を迎える整備士の増加も求人倍率上昇に拍車をかけています。
こうした状況への対策として、若者・女性の就業促進や自動車整備業の生産性向上に向けた支援政策と並んで打ち出されたのが、特定技能「自動車整備」による海外人材の受入れです。ところが、「海外人材を受け入れたことがない」「特定技能に関する書類作成は難しくて躊躇している」という事業者が多いのが現状のようです。海外人材雇用も管理もすべて一括で行うことができる特定技能特化型のプラットフォーム『Linkus』にぜひご相談ください。
[3] 国土交通省「自動車整備分野における外国人の受入れ(在留資格:特定技能)」
特定技能「自動車整備」で外国人の受け入れが可能な業務・業種
特定技能資格には1号と2号があります。特定技能1号は、その分野の基本的な業務に従事する人材を想定しており、在留年数には上限があります(最長5年)。特定技能2号は高度な熟練を要する業務に従事する人材を想定しており、在留年数に上限がありません。
自動車整備分野で受入れが行われているのは、現在のところ1号だけです。特定技能「自動車整備」1号外国人が担当する業務は、自動車の日常点検業務、道路運送車両法に規定された定期点検業務、分解整備業務とされています。
特定技能1号外国人には、ステアリング・ブレーキ・エンジン・サスペンションなどの各部の定期点検業務や、エンジン・ブレーキ・ギアボックスなどの重要部品を分解して行う整備・改造業務を1人で適切に行える技能水準を有していることが求められます。これは概ね3級自動車整備士が担当する業務に相当します。
日常点検・定期点検・分解整備という基本業務に加えて、これらの業務に付随すると考えられるような関連業務(整備内容の説明、関連部品の販売、塗装、洗車、車内掃除など)を特定技能外国人に任せることも可能です。
こうした業務を行っている事業所であれば、自動車整備工場に限らず、整備ピットを有するガソリンスタンド・カーグッズショップなどの店舗でも特定技能外国人の受け入れが可能です。
特定技能「自動車整備」で受入れ可能な人材の条件
外国人が特定技能1号の資格を得るためには、一定程度の専門技能および日本語能力を有していることを試験で証明しなければなりません(ただし、自動車整備分野の技能実習2号を修了した外国人はいずれの試験も免除されます)。
技能試験に合格していること
特定技能のために作られた技能試験「自動車整備分野特定技能評価試験」か、日本の国家試験「自動車整備士技能検定試験3級」に合格する必要があります。「自動車整備分野特定技能評価試験」の技能水準は「自動車整備士技能検定試験3級」と同程度で、試験の科目・形式などは以下の通りです。
【自動車整備分野特定技能評価試験の概要】
日本語試験に合格していること
「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格している必要があります。
特定技能所属機関(=受入れ企業)の要件
特定技能「自動車整備」により外国人を受け入れる企業(特定技能所属機関、受入れ企業)には、以下の要件が課されます。
- 国土交通省が設置する「自動車整備分野特定技能協議会」の構成員であること(初めて外国人を受け入れる場合には、外国人の入国後4か月以内に加入すること)
- 同協議会に対し必要な協力を行うこと
- 国土交通省またはその委託を受けた者が行う調査・指導に対し必要な協力を行うこと
- 外国人を受け入れる事業所が、業法(道路運送車両法第 78 条第1項)に基づき、自動車分解整備事業を営む事業所として地方運輸局長の認証を受けていること
- 1号特定技能外国人支援計画の実施を外部に委託する場合、一定の要件を満たす登録支援機関に委託すること
この記事では上記のうち、特定技能制度特有の要件と言える1・2と5について詳しく説明します。
自動車整備分野特定技能協議会への加入と協力
自動車整備分野特定技能協議会は、特定技能「自動車整備」制度の適正かつ円滑な運用を可能にするために設立された組織で、受入れ企業や登録支援機関、有識者、自動車整備事業者団体、関係省庁などで構成されています。
企業が特定技能外国人を受け入れるためには、協議会の構成員となり、協議会の活動に対して適宜協力することが必要です。協議会は以下のような活動を行います。
- 特定技能制度の趣旨や優良事例の周知
- 外国人受入れに係る人権問題などへの対応策の検討
- 受入れ企業などに対する法令順守の啓発
- 受入れ企業の倒産時などにおける特定技能外国人への転職支援
- 就業構造の変化や経済情勢の変化に関する情報の把握・分析
- 地域別の人手不足の状況の把握・分析
- 大都市圏などへの人材集中を避けるための対応策の検討
- 受入れ企業・登録支援機関が構成員であることの証明
- その他、特定技能制度の適正かつ円滑な運用のために必要な情報・課題の共有や協議
適正な登録支援機関への支援委託
受入れ企業は、受け入れた外国人が日本で問題なく生活していけるように、以下のような支援を提供しなければなりません。
【受入れ企業に義務づけられている支援の内容】
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保や生活に必要な契約に関する支援
- 生活オリエンテーション
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(受入れ企業の都合による契約解除の場合)
- 定期的な面談と行政機関への通報
支援の実施を外部の機関に委託することは可能ですが、適正な支援が行われなかった場合には受入れ企業自身が責任を負うことになります。ただし、法令の基準に適合し必要な登録を済ませた支援機関(登録支援機関)に支援の全部を委託した場合には、義務を果たしているものと見なされます。
自動車整備分野で支援を登録支援機関に委託する場合、委託先の登録支援機関が以下の条件に適合している必要があります。
- 受入れ企業が満たすべき要件1~3(上記)を満たすこと
- 1級ないし2級の自動車整備士か、自動車整備士養成施設で5年以上指導に携わった経験を持つ人物が所属していること
特定技能「自動車整備」活用の注意点
ここまで取り上げたこと以外で、特定技能「自動車整備」を活用する上でとくに注意すべき点を記しておきます。
費用負担
受入れ企業の義務として定められている支援については、受入れ企業がすべての費用を負担する必要があります。また、特定技能外国人が定期的に負担しなければならない費用(家賃や食費、光熱費など)については、適正な額を設定した上で、明細を記した書面を提示して説明し、外国人との間で事前に費用負担に関する合意を結んでおくことが必要です。
雇用契約
特定技能外国人との雇用契約においては、所定労働時間や報酬額が日本人労働者と同等となっていなければならず、報酬決定や教育訓練の実施、福利厚生施設の利用といった待遇の面で差別的な扱いをすることは許されません。
また、自動車整備分野では直接雇用のみが認められており、特定技能外国人を派遣したり、派遣された特定技能外国人を雇用したりすることはできません。
まとめ
自動車整備業では国内の人材不足が深刻化しており、特定技能「自動車整備」は解決手段のひとつとして活用が期待されています。
制度の活用にあたっては、法令に定められた各種の要件を満たすとともに、外国人への支援などを適正に実施することが求められます。また、今回は触れる余裕がありませんでしたが、特定技能外国人の受入れや在留資格更新の申請では複雑な書類手続きが必要になります。そのため、人材管理システムなどを利用して受入れ業務を効率化し、登録支援機関や行政書士などの専門家との連携を円滑化することが、特定技能制度活用の鍵となります。
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