宿泊業の外国人雇用ガイド|ホテル・旅館で採用できる外国人材の在留資格と業務内容 まとめ

日本政府観光局等によると、2024年度のインバウンド消費額は過去最高の8兆円越えとなりました。この盛り上がりの一方で、人手不足や外国人採用に頭を悩ませている宿泊施設も多いことでしょう。

この記事ではホテルや旅館で外国人材を雇用する場合、どういった在留資格があるのか。また、どのような仕事内容を任せられるのかについて解説しています。なお、特定技能外国人採用に関する疑問点はなんでもLinkus特定技能アドバイザーにお尋ねください。

[宿泊業]で外国人を採用するには?在留資格の基本知識

外国人を雇用するためには、日本での在留資格を正しく理解し、適切な制度に沿って採用する必要があります。ここでは、宿泊業で実際に使える在留資格と、それぞれの違いをわかりやすく解説します。

在留資格とは

在留資格とは、外国人が日本に滞在しながらどのような活動を行ってよいかを定めた法的な区分です。日本では出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づき、在留資格が31種類以上に細かく分類されており、それぞれに許可される活動内容や在留期間が定められています。外国人を宿泊施設で雇うには、その人が「宿泊業の仕事をしても良い」とされる在留資格を持っている必要があります。

宿泊業で使える代表的な在留資格一覧

宿泊業における外国人雇用で活用される代表的な在留資格は、下記の3種類です。

①特定技能(1号/2号) 

項目内容
対象業務フロント・接客・清掃など宿泊業務全般
日本語要件N4相当以上(JFT-Basicも可)
技能要件宿泊業技能測定試験に合格
在留期間1号:最長5年(更新制限あり)/2号:更新制限なし(2025年追加予定)
家族帯同1号:不可 / 2号:可能
備考即戦力としてフルタイム就労が可能/今後は長期雇用の主力へ

特定技能[宿泊]:フロント業務から予約管理対応、企画やPR、レストランサービス(ホテルが運営するレストランに限る)、客室清掃やベッドメイキングなど、全ての業務に従事することができます。フロント業務では、チェックイン・チェックアウトの対応や宿泊客の受付、観光案内を行い、レストランサービスでは配膳や接客、キッチン業務などを担当します。

特定技能[宿泊]について詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

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②技術・人文知識・国際業務(いわゆる「技人国」)

項目内容
対象業務語学対応・企画・広報・海外営業など
日本語要件明確な基準なし(業務遂行に必要なレベル)
学歴要件原則:大卒以上(職務に関連した専攻)
在留期間1~5年(更新可能)
家族帯同可能
備考フロントや接客業務だけでは不許可となる可能性あり/「単純作業」は対象外

在留資格[技術・人文知識・国際業務]では 国際業務分野にあたる[通訳]としての在留資格で宿泊業に従事している外国人材が多いです。[通訳]の在留資格の場合、原則として通訳・翻訳 業務のみに従事することが求められており、基本的にはフロント業務における通訳対応や宿泊施設の案内・パンフレットの翻訳、外国語での接客マニュアルの作成・社内研修などに業務が限定されます。

③技能実習

項目内容
対象業務客室清掃・ベッドメイキングなど一部の作業のみ(監理団体経由での雇用)
日本語要件不問(受け入れ企業が支援)
技能要件所定の技能実習計画の認定が必要
在留期間最大5年(1年+2年+2年の更新)
家族帯同不可
備考技能移転を目的とした制度のため、長期雇用には不向き/現在は縮小傾向

技能実習は特定技能と比べて従事できる業務が異なります。技能実習制度では、実習計画に基づき業務内容が細かく設定されており、単一の単純作業ではなく一定の専門性を持つ複数の業務に携わることが求められます。宿泊業においては、主に客室清掃やレストランの補助業務や施設整備の業務に従事します。具体的には清掃作業やリネンの管理、調理補助や皿洗い、日常的なメンテナンスなどが該当します。

特定技能と技能実習の違いについて、詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

「技能実習」と「特定技能」の特徴とそれぞれのメリットについて
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特定技能[宿泊]とは

近年、特定技能制度を活用して外国人材を採用する宿泊業の企業が増えています。「人手不足の解消」「即戦力の確保」「インバウンド対応の強化」など、多くの宿泊施設がその効果を実感しており、今後ますます注目される制度となっています。

特に、接客やフロント業務、客室清掃など“現場での実務”を担える在留資格として、他の制度(技能実習や留学生アルバイト)にはない柔軟さと将来性が評価されています。ここでは、特定技能の基本的な制度設計と、宿泊業における具体的な適用内容を解説します。

「特定技能1号」と「2号」の違いと宿泊分野の該当範囲

特定技能は大きく分けて「1号」と「2号」の2種類があり、それぞれ特徴と要件が異なります。

分類特定技能1号特定技能2号
対象分野宿泊業を含む16分野現時点では建設・造船分野など(※宿泊業も2025年以降に追加予定)
在留期間最長5年(1年・6カ月・4カ月単位で更新)制限なし(永続的な更新可)
家族帯同不可可能
移行要件技能試験・日本語試験の合格が必要1号での実務経験+2号試験合格が必要(予定)

現在、宿泊業での受け入れは特定技能1号が主流ですが、今後は2号への移行も視野に入れた育成型雇用がカギとなります。

特定技能[宿泊]の対象業務

特定技能(宿泊分野)では、実際に宿泊施設で行われる“現場業務”の多くが対象となります。主な対象業務は以下の通りです。

  • フロント業務(チェックイン・チェックアウト対応、予約受付など)
  • 客室対応(清掃、ベッドメイキング、備品の補充など)
  • レストランでの接客・配膳・オーダー取り
  • 館内案内や外国語対応などのサービス業務全般
  • 売店・温浴施設でのレジ業務や清掃(業務の一部として従事可能)

技能試験・日本語能力要件

宿泊業で特定技能1号を取得するには、以下2つの試験に合格することが必須です。
① 宿泊業技能測定試験
・宿泊業界で求められる実務知識(接客、清掃、緊急対応など)を問う試験
・コンピュータ方式(CBT)で実施
・日本国内・海外の複数会場で定期的に実施中(プロメトリック社による運営)
②日本語試験
・JFT-Basic(Japan Foundation Test for Basic Japanese)
・または 日本語能力試験(JLPT)のN4以上

特定技能に関しての補足

下記の分野でも、特定技能外国人が宿泊施設で就労することが可能です。ただし、それぞれの分野内の業務を行うことが必須ですのでご注意ください。

・特定技能[ビルクリーニング]
ビルクリーニングの特定技能で従事できる業務は、ビルの内部の衛生環境や美観などを守るための清掃業務です。ホテルや旅館等のベッドメイクについてはビルクリーニング業者がホテルから業務を請け負い、実際の作業を特定技能外国人が行うことが可能です。

[ビルクリーニング]の分野において特定技能外国人を雇用するためには『建築物環境衛生総合管理業』への登録、および『ビルクリーニング分野特定技能協議会』の加入が求められます。特定技能[ビルクリーニング]について詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

〖最新版|2025年対応〗特定技能「ビルクリーニング」とは?雇用条件・試験対策・受け入れ準備ガイド
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・特定技能[外食]
ホテル敷地内のレストランで特定技能外国人を受け入れる場合、経営主体の業種が鍵となります。ホテルとレストランの経営主体が同じ場合(ホテル直営レストランの場合)、その業種は[宿泊]ということになります。この場合、特定技能[宿泊][外食]どちらの分野でも特定技能外国人の受け入れが可能です。ただし[外食]で雇用した場合は[宿泊]に該当するホテルのフロント業務等は任せられないので注意してください。

一方、飲食サービス業者などがテナントとしてレストランの敷地内で飲食店を経営している場合、経営主体は[外食]となります。この場合は特定技能[外食]でのみ受け入れが可能です。

特定技能[外食]について詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

【最新版】特定技能「外食業」で海外人材を受け入れるために必要なこと
在留資格「特定技能」は日本国内で深刻化する人手不足への対策として、2019年4月に施行された制度です。特定技能で就業できる業種は「不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」。つまり、現時点で人手が不足している、あるいは近い将来人手不足が予測...

特定技能外国人を採用する際のステップ

特定技能制度を使って外国人材を採用するには、いくつかのステップを順に踏んでいく必要があります。ここでは、採用にあたって必要な準備から、採用後の支援体制の構築までをわかりやすく解説します。

採用前に準備すべきこと

まずは、受け入れ企業側で以下の準備が必要です。

  1. 自社が制度の受け入れ条件を満たしているか確認
    ・適正な労働条件(最低賃金以上、法定労働時間内)
    ・社会保険・雇用保険への加入
    ・宿泊分野特定技能協議会への加入(義務)
  2. 求人内容の整理と業務内容の明確化
    ・フロント業務、清掃、レストラン対応などを明文化
    ・業務が「特定技能の対象業務」に該当するか確認(単純労働のみに偏らないように)
  3. 社内支援体制の検討
    ・自社で支援体制を構築するか、登録支援機関に支援を委託するかを検討
    ・外国人とのやり取りに対応できるスタッフの有無

試験合格→在留資格申請→雇用契約の流れ

特定技能外国人を採用する標準的なプロセスは以下の通りです。

① 試験合格:外国人が以下の2つに合格する必要があります
・宿泊業技能測定試験(業務に関する知識・スキル)
・日本語試験(N4以上)(JFT-BasicまたはJLPT)

② 在留資格申請:採用が内定したら、在留資格[特定技能1号]の申請を行います。(海外在住者の「認定」申請の場合は企業が、国内在留者の場合は原則本人が中心となって進める)
・雇用契約の締結
・支援計画の作成
・必要書類を揃えて入国管理局へ申請
※すでに日本にいる留学生や技能実習生の転職も可能

③ 雇用・受け入れ開始:在留資格が許可され次第、就労がスタートします。
・出迎え・住居確保・生活ガイダンスなどの支援を開始
・就労開始後も定期的な面談や日本語学習支援などが必要

登録支援機関 or 自社支援体制の選択

特定技能外国人を雇用する場合、企業は以下いずれかの方法で支援業務を担う必要があります。

◆登録支援機関を活用する場合:外部の専門機関に支援業務を委託する方式
業務例:生活オリエンテーション、行政手続き同行、定期面談、苦情対応、日本語学習支援 など
・メリット:専門知識がなくても制度を活用できる
・注意点:委託費用が発生(月額数万円×人数程度)

◆自社支援体制を構築する場合:社内で支援業務を全て実施する方式
・メリット:コスト削減、社内ノウハウの蓄積
・注意点:人的リソースと制度理解が必要/支援内容に不備があると不許可になる可能性あり

特定技能[外食]について詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

【2025年最新】コスト削減だけじゃない!メリットが多い特定技能の自社支援について
特定技能外国人の支援に関して、ベネフィットを考慮して「自社で支援して外部委託に係るコストを削減したい」と考えている企業は少なくないでしょう。自社支援(自社管理)の利点はコスト面だけでなく、ノウハウの蓄積、信頼関係の構築など様々です。しかし、...

宿泊業の受け入れ企業が気をつけるべきこと

特定技能制度を活用すれば、即戦力となる外国人材を宿泊業に受け入れることができます。しかしその一方で、受け入れる企業側にも法的な責任や制度的なルールがしっかりと定められており、気をつけなければならない点が多くあります。

制度を正しく理解し、適切な対応を取ることが、不許可リスクの回避や人材の定着につながります。

労働条件・法的責任

特定技能で外国人を雇用する場合、企業は日本人と同等以上の労働条件を保証する義務があります。

守るべきポイント:

  • 給与額: 同じ業務に就く日本人と同等以上であること
  • 労働時間・休日: 労働基準法に準拠(週40時間以内、残業割増の支払いなど)
  • 社会保険: 健康保険・年金・雇用保険への適用が必須
  • 契約内容の明示: 母国語または理解できる言語で労働条件通知書を交付する

また、契約外業務への従事や過剰労働、支援の放棄は在留資格取り消しや受け入れ停止の対象となるため、企業側の責任は非常に重くなっています。

在留期間や人数制限

特定技能制度には、在留期間や受け入れ人数に関するルールも設けられています。

◆在留期間の上限(特定技能1号):
・原則、1年・6カ月・4カ月単位で更新可
・通算で最長5年間の在留が可能
・5年を超えて継続して雇用するには、特定技能2号や他の在留資格への移行が必要

◆宿泊分野の受け入れ枠(※制度的上限):
・2024年度までの受け入れ上限人数は12,000人
・今後は緩和または撤廃される可能性もあり

協議会加入・支援義務

特定技能で外国人を受け入れる企業は、宿泊業特定技能協議会への加入が義務付けられています。

◆ 宿泊業特定技能協議会とは
特定技能で外国人を受け入れる企業は、宿泊業特定技能協議会への加入が義務付けられています。

  • 受け入れ企業と関係機関が連携し、制度の健全な運用を促進する団体
  • 加入は義務(加入していないと在留資格が不許可になる可能性も)

◆ 支援義務(特定技能1号)
企業は以下10項目の支援内容を実施する必要があります(登録支援機関に委託も可):

  • 入国前の生活ガイダンス
  • 住居確保の支援
  • 生活オリエンテーション
  • 日本語学習の機会の提供
  • 相談・苦情対応体制の整備
  • 社会生活の支援(銀行・役所手続きなど)
  • 交流促進の支援
  • 転職時の支援(契約終了時)
  • 定期的な面談
  • 適正な記録の管理・保存

これらを自社で行う場合は、制度理解と社内体制が不可欠です。登録支援機関に外部委託することも可能ですが、委託していても最終責任は企業にあります。

宿泊業界の現状

まずは宿泊業界、特にインバウンド需要・市場規模についてと人手不足の現状について見ていきます。

インバウンド需要の状況

2024年6月の訪日外国人旅行者数は約314万人と、単月として過去最高を記録しました。

引用:観光の現状について-国土交通省

日本政府は「観光先進国」を目指し、2030年に6,000万人の訪日外国人旅行客の受け入れを目標に掲げています。宿泊業を含む観光業は、今後さらに盛り上がりを見せることでしょう。

引用:観光の現状について-国土交通省

宿泊業界での人手不足について

日本商工会議所・東京商工会議所によると、宿泊・飲食業において79.4%の企業が「人手不足である」と回答しています。

引用:「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」調査結果-日本商工会議所・東京商工会議所 2023年9月28日

この結果とは対比的に日本国内のインバウンド需要はコロナ禍後V字回復しており、人手不足はさらに深刻化していくと考えられます。しかしながら、少子高齢化が徐々に進んでいる日本国内だけで人材を確保することは困難な状況。そこで注目されているのが外国人雇用です。コロナ禍で海外からの渡航が減少していたものの、入国緩和措置により需要復活の兆しが見えてきました。特定技能等の制度の活用によって、若い働き手や日本語を活かして働きたいという若い人材の確保が期待されています。

まとめ

宿泊業で外国人を採用する際、近年注目されている特定技能制度。フロントや清掃、レストランサービスなど、現場の即戦力となる人材をフルタイムで雇える唯一の制度といっても過言ではありません。ただし、制度ごとに要件や更新条件が異なるため、目的や期間に応じて適切な在留資格を選ぶことが非常に重要です。

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