
この記事では、特定技能の宿泊分野における対象業務、試験、在留資格のポイント、受け入れまでの流れを初心者にもわかりやすくまとめました。なお、特定技能外国人採用に関する疑問点はなんでもLinkusや特定技能アドバイザーにお尋ねください。


特定技能[宿泊]とは
ここからは特定技能16業種のひとつ[宿泊]について解説します。
外国人が宿泊業界で働くための在留資格のひとつ
特定技能とは外国人が日本に滞在・就労するための在留資格で、日本で深刻化する人材不足の課題を解決するために創設されました。特定技能を取得した外国人材は各業種で現場労働が認められています。
「国内人材の確保が難局化している16業種について、一定の専門技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく」というのが特定技能創設の趣旨です。
「留学生アルバイト」との違いを簡単に比較
留学生アルバイトと特定技能との違いを比較してみましょう。
比較項目 | 留学生アルバイト | 特定技能(1号) |
在留資格の種類 | 留学 | 特定技能1号(宿泊) |
就労の目的 | 学業の合間にアルバイト | フルタイムで専門業務に従事 |
勤務時間の上限 | 週28時間まで(長期休暇中は週40時間) | 制限なし(正社員として週40時間も可能) |
できる仕事の範囲 | 接客補助・清掃など軽作業中心※単純作業のみだと不許可の恐れ | 宿泊分野で定められた業務全般(フロント・清掃・接客など) |
必要な試験等 | 不要 | 日本語試験(N4以上)+宿泊業技能試験が必要 |
在留期間 | 通常1年ごとの更新(卒業で終了) | 最長5年(特定技能1号)、2号取得で無期限可も |
将来的な雇用拡大 | 卒業後は就労ビザ変更が必要 | 2号へ移行すれば家族帯同・長期就労可能 |
雇用主側の支援義務 | 特になし(労基法遵守のみ) | 支援義務あり(生活支援・日本語学習・相談対応など) |
メリット | 短期間・柔軟にシフトに入れる人材が確保できる | フルタイムで長く働いてもらえる/即戦力になりやすい |
注意点 | 就労時間の上限を超えると不法就労扱いに/フルタイム雇用は不可 | 採用までに時間と手間がかかる(試験や在留資格手続きが必要) |
短期間で働いてもらえて、シフトが柔軟な傾向にあるのは学生アルバイト、長期的に外国人スタッフを育てていきたいと考えるのであれば特定技能を検討されることをおすすめします。
なぜ今注目されているのか
特定技能[宿泊]が注目されている理由について、主な3つの背景から解説します。
◆人手不足:
宿泊業界は、インバウンド回復・観光需要の増加といったポジティブな追い風が吹いている一方で、下記のような課題に直面しています。
- コロナ禍で一度離職した人材が戻ってこない
- 若年層の宿泊業離れ(労働時間や給与面の不安)
- 地方の宿泊施設では人材募集をかけても応募がない
その結果、客室清掃・フロント・レストラン接客など、あらゆる現場で人手不足が常態化しています。特定技能[宿泊]を活用することで、即戦力として働ける外国人スタッフを正社員として雇用でき、長期的な人材確保の選択肢になるかもしれません。
◆制度改正:
「特定技能」は2019年に新設された比較的新しい在留資格で、当初は制度面での不明瞭さや慎重な運用に対する意見が各業界からあがっていたようです。最近では、登録支援機関の増加による支援体制の整備、受け入れ企業に求められる要件の明確化、技能試験の開催頻度・会場の増加など、制度の整備・運用面の成熟が進み、使いやすくなったことも注目されている理由でしょう。
加えて特定技能の定期届出の頻度や随時届出のルール、在留資格申請書類に関する内容が一部変更されることとなりました。2025年4月施行された特定技能制度の変更点についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

◆特定技能2号が追加:
これまで特定技能2号は[建設][造船・舶用工業]のみに限定されていましたが、2025年に[宿泊][外食][農業]などの追加が正式に決定しました。これにより、永続的な就労(在留期間の制限なし)や、外国人材の家族帯同が可能になる他、長期的な戦力として育成できるというメリットがあります。
現在の特定技能1号の在留期間は最長5年ですが、2号へ移行できれば“実質的な永住”が可能となるため注目されています。(※ただし正式な「永住権」とは異なり、在留資格の更新は引き続き必要です)。
対象となる業務内容
特定技能に関して、観光庁の発表では「宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務に従事する外国人材の受入れが可能」とされています。
宿泊施設で従事可能な業務一覧(フロント、接客、清掃など)
・フロント業務:
チェックイン/アウト、周辺の観光地情報の案内、ホテル発着ツアーの手配 等
・企画・広報業務:
キャンペーン・特別プランの立案、館内案内チラシの作成、HP、SNS等による情報発信 等
・接客業務:
館内案内、宿泊客からの問い合わせ対応 等
・レストランサービス業務:
注文への応対やサービス(配膳・片付け)、料理の下ごしらえ・盛りつけ等の業務 等
2019年の特定技能制度施行以前は、宿泊業で海外人材を雇用するには「技能・人文知識・国際業務」で通訳などの従事が一般的でしたが、特定技能制度によってより多くの業務に従事できるようになりました。ただし、特定技能外国人がすべての業務に携われるわけではありません。国土交通省の発表した資料ではこのように記載されています。
当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:館内販売,館内備品の点検・交換等)に付随的に従事することは差し支えない
引用:「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-宿泊分野の基準について-」の一部改正について(令和元年11月29日)
付随的な業務の範囲とは
同様の業務に就く日本人スタッフが従事する内容であれば、関連業務を行うことが可能となりました。ハウスキーピング、ドアマン、宴会用スタッフ、施設内での販売業務、施設内の備品点検や交換、清掃など、幅広い業務などがそれに該当します。特定技能外国人を雇用することで、人材不足を補えるだけでなく、多言語での接客が可能となるメリットも見逃せないポイントです。
注意点
ここで注意しなければならないのは、「付随的に従事することは差し支えない」と言及されていることです。特定の業務のみを担当させることはできません。特定技能[宿泊]で雇用した外国人材に客室清掃を担当してもらうことは可能ですが、それのみではなく他の業務にも携わってもらう体制が必要です。
ちなみに特定技能外国人に対して、風営法に関する接待業務をさせることは禁止されています。ホテル内のクラブやスナックなどで接客をすることがこれに該当します。適切でない業務に外国人材を従事させると、在留資格の取り消し・罰則の対象になる可能性があります。十分に注意してください。
特定技能[宿泊]の受け入れ要件
ここからは外国人材を特定技能[宿泊]で受け入れるための要件について解説します。
求職者側の条件
特定技能[宿泊]において受け入れられる外国人材は以下の2つの試験に合格した者、もしくは宿泊分野の技能実習2号を修了した者とされています。
◆技能試験と日本語の試験を受けるケース
・日本語の能力に関する試験に合格していること:
日本語に関する試験に合格することは、業務に関わる日本語能力水準を満たしていることが証明されます。具体的には『日本語能力試験(N4以上)』または『国際交流基金日本語基礎テスト』に合格していることが求められます。
・宿泊業技能測定試験に合格していること:
宿泊業で必要となる知識や技能を身につけているか、を証明するために宿泊業技能測定試験に合格していることも求められます。この試験は業務に直結した内容が出題されます。具体的には、フロント業務、企画・広報業務、接客業務、レストランサービス業務、安全衛生その他基礎知識といった5つのカテゴリーから出題されます。この技能試験は宿泊業技能試験センターが実施するものです。学習用テキストは一般社団法人宿泊業技能試験センターのwebページからダウンロードができます。
その他の要件として、特定技能のどの分野でも共通している以下の点も求められます。その理由は日本の法律上、18歳未満の労働者に特別な保護規定が定められているためです。
- 日本入国時に18歳以上であること
- 保証金または違約金の徴収などをされていないこと
- 送り出し国で海外雇用についての規定がある場合、正当な手続きを経ていること
また、海外人材本人やその家族に保証金・違約金の徴収がある場合、日本での活動に支障が出る可能性はゼロではありません。特定技能という在留資格を保持するうえで、こういった徴収等がないことも求められます。さらに、出身国によっては海外で労働するために規定や手続きが必要となる場合があります。正当な手続きを経ているかを確認した方が良いでしょう。
◆宿泊分野の技能実習2号を修了するケース
宿泊業分野の技能実習2号を修了した技能実習生は、無試験で特定技能1号へ移行することが可能です。
宿泊業分野の特定技能2号の取得要件
特定技能1号としての通算在留期間(5年間)が満了した後は、特定技能1号としての就業が継続できません。それ以降も特定技能外国人が日本に在留するには特定技能2号に移行することが必要であり、その要件は以下です。
『宿泊分野特定技能2号評価試験』合格
宿泊業分野(宿泊施設)において2年以上の実務経験(複数の従業員を指導しながらフロント、企画・広報、接客、レストランサービスなどの業務を遂行した経験)
[宿泊業]で特定技能2号の在留資格を得るには、『宿泊分野特定技能2号評価試験』の合格だけでなく、具体的な実務経験が求められます。
〈 分野、区分の概要 〉
複数の従業員を指導しながら、旅館やホテルにおけるフロント、企画・広報、接客、レストランサービス等の宿泊サービスの提供業務〈 従事する主な業務 〉
複数の従業員を指導しながら、主に以下の業務に従事
・フロント業務(チェックイン/アウト、周辺の観光地情報の案内、ホテル発着ツアーの手配 等)
・企画・広報業務(キャンペーン・特別プランの立案、旅館やホテル内案内チラシの作成、HP、SNS等による情報発信 等)
・接客業務(旅館やホテル内での案内、宿泊客からの問い合わせ対応 等)
・レストランサービス業務(注文への応対やサービス(配膳・片付け)、料理の下ごしらえ・盛りつけ等の業務 等)〈 想定される関連業務 〉
旅館やホテル内における販売、備品の点検・交換等
引用:特定技能2号の各分野の仕事内容(Job Description)/ 出入国在留管理庁
特定技能2号外国人には、宿泊施設で不測の事態やトラブルが起きた際、自ら対処できる高度な能力が求められます。
特定所属機関に求められる要件
特定所属機関とは特定技能外国人を雇用する受け入れ企業のことです。

特定技能1号外国人の雇用に関して、受け入れる企業側にも以下3点の要件が求められます。
①許可された業務に従事させること:
特定技能「宿泊」で許可された業務は先述したとおりです。
②国土交通省が定めた『宿泊分野特定技能協議会』に加入し必要な協力を行うこと:
2024年6月15日以降、初めて特定技能外国人を受け入れる場合でも、在留資格の申請前に協議会へ加盟することが必須となりました。在留資格の申請時に、協議会に加盟していることの証明書を提出する必要があります。観光庁のサイトにある入会届に必要事項を記入し、郵送してください。
③海外人材に対して支援を適切に行うこと:
特定技能制度を活用して海外人材を雇用するためには、定められた支援を適切に行わなければいけません。受け入れ企業でサポートしきれない場合は、登録支援機関に支援業務を委託します。なお、自社支援に関してはこちらの記事も参考にしてみてください。

なお、以下のような事由に該当すると、外国人の受け入れが認められない場合があります。
- 労働法、社会保険関係法令、租税関係法令、出入国関係法令を遵守していない
- 特定技能外国人が担当することになる業務に従事していた従業員が、過去1年以内に会社都合で解雇されている
- 過去1年以内に、受入れ機関の落ち度で外国人の行方不明を発生させている
- 過去5年以内に、技能実習の認定を取り消されたことがある
特定技能外国人としての就労期間
特定技能[宿泊]では1号と2号が設定されています。就労期間についてはそれぞれ異なります。
- 特定技能1号:在留期間は通算で最長5年。1年、6ヶ月、または4ヶ月ごとの更新が必要。
- 特定技能2号:在留期間は3年、1年、または6ヶ月のいずれかだが、更新回数に制限がない。
ひとりの従業員に長く勤めてもらえれば、人材確保や採用、教育に関するコストや工数をカットできるため、受け入れ企業の利益にもつながるのではないでしょうか。
宿泊業での受け入れの流れ
外国人材を宿泊業で受け入れるには、制度に基づいたステップを正確に踏む必要があります。ここでは特定技能[宿泊]の外国人を雇用する際の一連の流れと、受け入れ後の支援体制について解説します。
① 試験合格 → ② 在留資格申請 → ③ 雇用契約・受け入れ準備
① 試験合格
特定技能1号(宿泊分野)で働くには、以下2つの試験に合格する必要があります
・宿泊業技能測定試験(業務知識・実技に関する試験)
・日本語試験(JFT-Basicまたは日本語能力試験N4以上)
どちらも日本国内外で定期的に実施されており、近年は受験しやすい環境が整ってきました。
② 在留資格申請
試験に合格した外国人材が決まったら、雇用主は以下の手続きを行います:
・雇用契約の締結(法定労働条件を満たす必要あり)
・在留資格「特定技能1号」の申請(入国管理局へ)
・必要書類:試験合格証明書、雇用契約書、支援計画書など
③ 雇用・受け入れ準備
在留資格が許可されたら、入国手続きまたは在留資格変更後に就労開始となります。同時に受け入れ企業は生活支援や相談体制の整備も始める必要があります。
登録支援機関を使う場合と自社支援の違い
企業が特定技能制度を活用して外国人材を受け入れる際、以下2つの支援方法があります。
◆登録支援機関を使う場合
外部の専門機関に「支援業務」を委託する方法
メリット:初めてでも安心、書類作成や相談対応も任せられる
デメリット:委託費用がかかる(月数万円~)
◆自社支援(企業が支援を自社で行う)
企業内に外国人支援体制(担当者・マニュアル・相談窓口など)を構築する方法
メリット:コスト削減、社内にノウハウが蓄積される
デメリット:人的リソースが必要
受け入れ後のフォローアップ
特定技能人材の安定就労には、就労開始後のフォローが極めて重要です。下記の支援は制度上の義務ではありませんが、人材の定着率を高めるカギとなることでしょう。
- 生活支援:銀行口座の開設、携帯契約、病院案内、母語での生活ガイダンス(可能な限り)など
- 日本語学習支援:就労に必要な会話力・接客用語を継続して学べる機会の提供
- 相談体制:母語または英語で相談できる窓口を社内または支援機関に設置/定期的な面談・職場巡回による早期トラブルの発見と防止
特定技能[宿泊]活用の注意点
特定技能[宿泊]分野において、宿泊施設ならばどこでも採用できるわけではないので注意してください。簡易宿泊所や下宿営業、風俗営業法第2条第6項4号に該当する施設での雇用は認められていません。ラブホテルやモーテル等では、この在留資格の海外人材を雇用できないのです。詳しい要件については警察庁の資料をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 留学生と特定技能、雇う際の違いとは?
A. 留学生は基本的に「学業が主」で、週28時間以内のアルバイトしかできません。一方、特定技能は「就労が目的のビザ」でフルタイム勤務が可能です。また、特定技能には日本語や業種ごとの試験に合格する必要があります。
Q. ホテル以外(旅館やゲストハウス)でも特定技能で外国人を採用できるのか?
A. はい、ホテルに限らず「旅館」「ゲストハウス」「民泊」なども対象です。特定技能[宿泊]は、「旅館業法」に基づく宿泊施設であれば適用可能です。旅館・温泉宿、ゲストハウス・ホステル、民泊(簡易宿所)、ビジネスホテル・リゾートホテルといった事業者も外国人を特定技能1号で雇用できます。ただし、業務内容が明確に宿泊業務に該当している必要があり、飲食店やアクティビティ運営業務だけでは対象外となるケースもあります。
Q. 在留期限が来たら、外国人スタッフはどうなるのでしょうか?
A. 特定技能1号では最大5年間の在留が可能ですが、その後の選択肢もあります。在留期限が近づいたら、在留資格「特定技能1号」の更新(1年、6カ月または4カ月単位)が可能で、合計5年まで更新できます。ただし上限に達すると更新はできません。その後も特定技能[宿泊]で就労を希望する場合、特定技能2号への移行を行ってください。追加試験と実務経験(通常2年以上)により、在留期間の制限なく働くことが可能となります。他には、[技術・人文知識・国際業務](語学や企画業務など)、結婚による[日本人の配偶者等]など、他の在留資格へ変更することも方法のひとつです。
まとめ
盛り上がるインバウンドの波に乗るためにも、[宿泊業]における人材確保の手段として、特定技能の活用を前向きに検討することをおすすめします。なお、特定技能採用は特定技能特化型のプラットフォームLinkusが、自社支援に関する内容は特定技能アドバイザーがお手伝いいたします。ぜひご相談ください。