外国人雇用をテクノロジーで支援するBEENOS HR Link株式会社(以下「BEENOS HR Link」)は、コロナ禍での海外人材の雇用状況について解説する【海外人材雇用】記者説明会を3月4日(木)に開催。緊急事態宣言下ということでオンライン説明会となりましたが、20社以上の報道関係者様にお集まりいただきました。
本説明会でご登壇いただいた方の一人、栗田貴善氏は海外人材の受け入れをサポートする一般社団法人 国際連携推進協会の理事 兼 事務局長です。受け入れ側からの「コロナ禍における海外人材の雇用状況」についてご解説いただきました。
栗田氏のプロフィールについて
一般社団法人国際連携推進協会でございますが、技能実習生ならびに特定技能の登録支援機関と監理団体、約50団体に加盟いただいております。また、外国の方が日本で生活するうえで必要なサービス(通信や送金など)を提供している30社ほどの一般企業にもご参加いただいております。
私自身が海外人材と関わるようになったのは、2010年に資金決済法という法律が施行された頃です。資金決済法施行前は銀行でしか外国為替業務(送金業務)ができませんでしたが、施行後は一般企業も海外送金ビジネスに参入することができるようになりました。そのタイミングでSBIグループの送金会社のメンバーとなったことがきっかけです。2016年末にSBIグループから退職した時点で、約700の監理団体と提携をさせていただきました。当時、全国で2,400ほどの協同組合や監理団体があり、全国を回って代理店や送金サービスの説明をさせていただきました。
技能実習生は入国後最初の1ヶ月は集合講習施設で研修を受けます。日本の教育や警察や消防の講習を受けたり、農業に携わる実習生には現場で使用する日本語の教育をしたりという施設なのですが、そこで入国したばかりの実習生に対して送金サービスの説明をさせてただいていたんです。
その説明が終わると実習生の皆さんから「Wi-Fiはどこで契約すればいいですか?」「こういう調味料は日本で購入できますか?」といった質問を受けたんです。「実習生の人たちは送金以外にも困っていることがたくさんある」ということに気づいたことがきっかけで、国際連携推進協会の理事を務めるに至りました。現在は商工会議所、一般企業、一般社団法人からご依頼を受け、海外人材活用セミナーを開催させていただいております。
海外人材雇用の現状
技能実習制度の成り立ちについて
技能実習制度より以前は研修制度というものがございました。例えば日本に本社を置く企業がベトナムに支社を持っている場合、研修として現地の職員を日本に呼んで仕事を学んでもらうという制度です。
1993年に正式に制度化され、2年に1度くらいのペースで更新されてきましたが、2017年11月に施行された技能実習法で大幅な見直しがなされました。大きく変わった点は監理団体が許可制、実習実施者は届出制になったことです。さらに、2019年4月からは入管法が改正され、在留資格「特定技能」が新設されたことも業界としては大きな変化です。
技能実習生の人数の推移
私が海外人材に関わるようになってからのものをグラフにいたしました。この10年で約4倍に増えた大きな要因は、「技能実習制度」を全国の中小企業、特に製造業に認知していただけたことではないでしょうか。技能実習生が携わることができる仕事は現在、83職種、151作業ございます。この10年間で受け入れられる職種と作業が増えたことも、技能実習生が増えた要因だと思います。2015年には惣菜製造業、2016年には自動整備とビルクリーニング、2020年には宿泊が追加となりました。
国籍ごとの受け入れデータ
技能実習制度の開始時は中国からの受け入れのみだった影響は大きく、2010年は約8割が中国からの実習生でした。10年後の2020年6月を見てみると、大きく伸びているのはベトナムでございます。中国国内のめざましい経済発展の影響から、実習生として来日することが昔ほど重要視されなくなった背景があり、受け入れ側である日本がその近隣諸国に目を向けた結果でしょう。現在ではインドネシアやフィリピン、ミャンマー、カンボジアも増えており、多国籍化が進んでいます。
新型コロナウイルスの影響について
新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した受け入れ企業は少なくありません。それに伴って、入国を予定していた実習生に対してキャンセルしなければならなくなったケースが多発しており、実習生の数は伸び悩んでいます。
特定技能の14分野の中には外食がございますが、「緊急事態宣言等の影響で外食業界が人材を雇える状況ではなくなってしまった」というのも大きな打撃です。一方食品製造業や農業は、「入国を予定していた海外人材が来日できなくなってしまったために、人材不足がさらに深刻化してしまった」という問題を抱えています。
2020年7月に一部緩和され“レジデンストラック”が運用されました。これは「日本への入国後14日間(実質15日泊)完全隔離をする」というものです。隔離方法は一人一部屋(バス・トイレ付き)が必須であるため、運用するのにかなりコストがかかります。1泊6,000円として15泊すると1人90,000円で、実習生が10名となると900,000円がこのルール適用に必要なコストとなります。負担を強いられる受け入れ企業側が「厳しい」と判断されることが多いのが現状のようです。
技能実習と特定技能の制度比較
技能実習と特定技能の大きな違いは職種です。技能実習生は83職種、特定技能は14職種ございます。大きな違いとしては入国時の試験です。技能実習生の場合は介護職以外は特に要件はありませんが、特定技能は日本語能力試験と、それぞれの業界団体が設ける技能試験に合格する必要があります。これから日本で仕事をしようと考えている外国籍の方にとってはハードルが高い要件ですので、特定技能外国人の数が伸び悩んでいる要因のひとつなのではないでしょうか。ちなみに、特定技能は同じ職種内でしたら転職が可能ですし、技能試験に合格すれば違う職種への転職も可能です。
海外人材の都市部流出の問題と対策について
都道府県別にみると、農業や製造業の多い茨城、造船関係の多い広島、自動車産業系の会社が多い愛知県は技能実習生が多い傾向にあり、職種の関係で偏りがございます。「いつかは東京、大阪、名古屋で仕事したい」と希望している技能実習生が多いようですが、地方には都心部にはない良さがあることをアピールする必要があると感じています。
都市部流出の防止施策について
海外人材が都市部に偏ってしまうことを防止するための施策の一つとして意識改革が必要です。残念ながら、現在でも「外国人=安い労働力」というイメージをお持ちの方は少なくありません。地方でも都市部並みの賃金を払ってくださいということではありませんが、こういったイメージは払拭していくべきです。また、経営者だけではなく職員の方も海外人材に対して「理解しやすい日本語を使って仕事を進める」ということが求められます。さらに、受け入れ側が各国の宗教や食文化について、歩み寄って理解をしていくことも必要なのではないでしょうか。お祈りの時間や設備を設ける必要もでてくるかもしれません。
二つ目は生活環境を整えることです。実習生の場合は配属されて初めて住む場所がほとんどです。生活する環境が分からないまま住み始めるのは、誰でも不安ですよね。ですので、入国前から実習生に生活環境についてお伝えしておくのがよいかと思います。加えて通信環境の整備も受け入れ企業の責務です。実習生のほとんどは家族を母国に残して来日しているため、仕事が終わったら顔を見ながら会話をしたいものですから。
三つ目は福利厚生です。来日後1ヶ月間集中的に研修をしますが、日本で生活する上でのルールやマナーをそこで完璧に習得するのは難しいです。働き始めてからも、理解しやすい動画等での学習ツールを用いて、習得できる環境を整えておくのも大切です。福利厚生として、日本語の学習支援も重要です。日本語のコミュニケーションスキルを上げることで仕事の効率も高められますし、日本で暮らしやすくなります。その地域に住んでいる外国人向けに日本語のe-ラーニングサービスを提供している自治体もございます。
最後に地域社会との交流の場も重要です。特に地方ですと、日本人であっても新参者は警戒されやすい傾向にあるため、外国人だとなおさらです。地域のイベントに実習生と一緒に行って近隣の方にご挨拶をするなどして、積極的に交流を深めている企業も多くいらっしゃるようです。
海外人材が増えない理由
今まで申し上げたことのまとめになりますが、海外人材が増えない理由のひとつは「新型コロナウイルスに関する影響」がかなり大きいです。感染症対策についてはそれぞれ国によって方針が違いますので、日本だけで解決することはできません。
ただ、国内に関しては打つ手はあります。すでに日本にいらっしゃる留学生の方、技能実習生として来日したけれどそれが打ち切りになってしまった方で、帰国することもできない方が多い一方、農業や飲食製造業のように人手が足りておらず、働き手と雇用主のマッチングがかみ合っていない現状を改善する余地があると考えています。
二つ目は「受け入れ側の意識改革が十分でないこと」です。残念なことに、悪質な監理団体や企業さんも未だにいらっしゃると聞きます。一方で、企業に対してしっかりと指導をしている監理団体や、実習生を家族のように受け入れている企業もとても多いです。こういった温かい企業さんを増えやしていくと同時に、外国籍の方が日本に入国する前に「どういったところで働くのか」「どんなメンバーがいるのか」「どんな地域なのか」などを理解できるよう、アピールしてく必要もあります。
三つ目は登録支援機関の経験値不足です。現在、一般企業もこの業界に参入できるようになったことから、これまで海外人材の受け入れをしていなかった企業も増えてきています。そのため、書類作成をして海外人材を呼ぶことはできても、その後の生活支援が行き届かないケースが増えると予想されます。海外人材と関わった経験や実績をしっかり見極めて、登録支援機関を選んでいただきたいです。
四つ目は煩雑な書類作業です。海外人材を日本に呼ぶためには、入国管理局に提出する書類を処理しなければなりません。特に技能実習と特定技能に関する書類処理は膨大で煩雑です。それだけではなく、在留資格の更新時にも書類作成が必要ですし、更新時には実習生本人が試験を受けなければいけません。在留期間内、受験や書類を出すタイミングのスケジュール管理も必要です。こういったことがほとんどアナログで行われている我々の業界では、2021年4月よりDX化が急速に進められる予定です。こういったネットワークを活用して、地方にも広めていければと考えています。
まとめになりますが、海外人材から「日本で働きたい」と思ってもらえる、選ばれる国になれるよう意識改革が必要だと感じています。私からは以上です。
一般社団法人 国際連携推進協会
理事 兼 事務局長
栗田 貴善 氏
外資系損害保険会社の営業職を経て2010年4月の「資金決済法」施行のタイミングで某送金会社へジ ョイン。外国人技能実習生の郷里送金市場を開拓。各県の技能実習生受入団体連絡協議会や協同組合連合 会の総会等の郷里送金セミナーに多数登壇。日本にいる外国人が困っている様々な問題を目の当たりにし、現在は国際連携推進協会の理事兼事 務局長として外国人の生活環境向上を目的とした活動に従事中。