日本で働く外国籍人材との最も身近な接点の一つが外食産業ではないでしょうか。料理のジャンルを問わず、様々な飲食店で活躍する外国籍人材は外食産業にとって無くてはならない存在となっている一方、そのキャリア形成をどのように設計していくか、悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。
多彩な飲食店ブランドを展開する株式会社ワンダーテーブルは、特定技能雇用を制度開始時から推進し、そのキャリア形成においても一歩踏み込んだ取り組みをしています。今回は、人材開発部 採用人事グループ マネジャー西島里沙氏に、特定技能外国人が活躍する人材戦略についてお話しを伺いました。
制度開始時から特定技能の雇用推進。グローバル人材育成にかける想い

──まずは、「株式会社ワンダーテーブル」の事業内容を教えていただけますでしょうか?
当社は東京中心に飲食店を展開している企業です。主にオリジナルブランドと、海外の有名ブランドを国内に展開するという2つの柱が事業の中心となっています。
さらに、海外事業部ではフランチャイズの形でアジアを中心に約100店舗飲食店を展開させていただいております。こちらは直営ではないのですが、海外店舗の支援という形で、我々が海外の取引先様と一緒に当社のブランドを展開していただくということもやらせていただいております。国内で37店舗、海外は101店舗(2025年12月時点)なので、店舗数は海外の方が多い状況です。
── 御社のプレスリリースで外国籍従業員の推移を拝見しました。2025年でアルバイト・正社員ともに外国籍従業員が約20%がいらっしゃる中で、その多くを特定技能の方が占めているのでしょうか?
特定技能だと16%ぐらいだと思います。残り4%は、また別の資格の方や、ブラジル料理店を運営しているのでそのブラジル人のシェフのような、技術のメンバーが在籍しています。
── ありがとうございます。やはり特定技能の方たちは、外国籍の正社員の中でもかなり主要なポジションを占めてらっしゃるということですね。 2022年から数字が公開されていますが、順調に増えている印象です。特定技能外国人の方の受け入れは、いつ頃、どのような背景で始められたのでしょうか?
1番最初に採用したのは2019年です。当時は「技術・人文知識・国際業務」(技人国)の方で数名採用はあったんですが、技人国の方は通訳なので飲食店の現場では働けないという課題がありました。ただ、我々の事業部の99%は飲食店で動いていますから、本当に現場で働ける海外人材を増やしていきたいと考えたことがきっかけです。
また、そもそもの背景として、会社としてグローバル人材の育成をやっていきたいという長年の想いがありました。グローバル人材の育成によってやはり会社の中の文化も変わりますし、風土にもいい影響が出てきます。会社の変化と成長のためにも必要なことだと考えていました。
また外国籍アルバイトスタッフはもう20年前からいるので、その文化の中で海外の方がどれぐらい活躍できるか体感で分かっていたところもあり、特定技能のビザができて本当にすぐ取りかかりたかった施策の1つであります。
── そうすると、制度の開始当初から率先して取り組んでらっしゃったのですね。2019年前後は入国も難しかった状況だったと思います。
そうですね。2019年の時は新規入国ではなく、アルバイトから長年活躍してくれた留学生の在留資格の変更という形で雇用をスタートしました。卒業を迎えるけれど「ワンダーテーブルで頑張りたい」という意志がある方がいたので、そうした方の道を開くという意味でも、待ち望んだ制度でした。
ミスマッチを防ぐ鍵。登録支援機関の活用と「相性」の見極め

── すでに活躍できると分かった上で雇用されているのは強みかと思いますが、特定技能制度を活用する際、採用に関して一番苦労した部分や、現在改善してほしいポイントはありますか?
やはり申請の大変さですね。当時は本当に大変でした。現在と比べ最初の方が書類の数も多かったですし、申請から実際に就業できるまでの時間もかかりますし、人によって許可が降りてくる期間が変わるので、同じ時期に提出した子でも差が出ることもありました。逆に、いざ降りると特定技能雇用の外国籍の方たちは「もう明日からでも行けるよ」という状態なんですが、今度はこっちの準備が間に合わなかったり。最初は結構混乱がありましたね。
現在は手続き対応自体は外注していますが、 未だに許可が降りてくるのは直前ではあるので、決まってから入店まではかなりタイムリーに動かさなきゃいけないのは変わりません。ただ、「多分もうそろそろだよね」という感覚がつかめているので、当初に比べ落ち着いたかなという印象は持っております。
── 採用から入社までの過程で、特に注意している点などはありますか?
そうですね。配属する店舗の選択については支配人とのマッチングを重視しています。早期離職を防ぐ意味でも重要視しています。
採用の時点でマッチングも判断しながら見極めている状況です。面接自体は年間で400弱ぐらい頂いておりまして、そのうち実際に採用させていただく方が本当に20名ぐらいなので、かなりじっくりとは見させていただいているつもりです。その中でやはりキャラクターを重視した面接をしていますので、なんとなくお店のイメージをしながら面接の最中の話をしております。そのため、割とその後の齟齬(そご)というのはあまり発生していません。
── 西島様ご自身が、国内30数店舗の個性も把握した上で「この店舗にはこういう人が合うはずだ」とイメージして面接されてるんですね。
そうですね。新卒も日本人の経験者も全部同じことなので、支配人とはかなり密にコミュニケーションは取ってまして、その時その時のアルバイトさんの今の状況だったり、店舗環境なども踏まえて、こまめに情報交換はしております。
「全員が2号取得へ」 活躍の目的を明確化し、共に成長する未来

── 煩雑な手続き業務は委託されている分、内部での体制づくりがすごく丁寧だなと感じました。特定技能外国人の方への日常的な支援や教育、サポートなどで実施されていることはありますか?
当社は日本語がすごく上手な方が多くて、あまり日常生活等でのサポートを必要とされることが少ないんですが、銀行手続きや病院のサポート等は一部行っております。 それ以外ですと、当社の特定技能のメンバーは全員、基本的にはもう「2号を絶対取る」っていうのを決めている方々でして、2号の対策講座は毎月必ず月1回勉強会を開いています。我々なりに練習問題を作ってみたりしながら、研修を行ったりしています。 他には入社3ヶ月は試用期間扱いになってますので、その間の新入社員研修とサポートと1対1面談を行っております。
── 「2号取得は絶対だ」という前提で入社されてるんですね。なかなかない取り組みだと感じました。
2号取得は本来は任意にはしてはいるんですが、現在の従業員は100%全員、受験する意志があります。すでに3人取って3人合格してるので、毎月必ずその研修で顔を合わせるんですよね。いい意味で切磋琢磨できるような関係性であるといいなとは思ってますね。
── 特定技能外国人の方と働く中で、現場でのコミュニケーション面で意識されていることはありますか?
特別それだけっていうことではないんですが、本当に基本的に他の日本人の正社員と同じように扱って同じようなフローで行くっていうのだけは前提に置いております。例えば店長・料理長は自分の部下のお店の全社員と1対1(ワンオンワン)面談が毎月必須です。そのため海外人材のメンバーも必ず上司と1対1を行います。
それ以外に、お誕生日会とか、社長が一緒にディナーを食べるトップディナーとか、そういったイベントを通じて、勤務店の中だけに固執させない施策を全社的に実施しています。飲食店あるあるなんですけど、お店の中だけに固定されちゃうとそこが世界になってしまいがちです。基本的には現在勤務する店舗だけじゃなくとも他の店舗とも絡ませていくことを意識してます。
他には、当社の運営する様々なブランドの説明会もあって、「今、自分はしゃぶしゃぶなんだけどイタリアンに興味ある」という時にはイタリアンの勉強会にも参加ができるんですよ。それによって結構フレキシブルに自分たちからも「この店舗に異動したい」など意見が出てくるような環境ができています。
── 皆さんは2号を取得した後、最終的にはどういったポジションに着きたいという思いを持ってらっしゃる方が多いですか?
うちは基本的にはもう100%現場の店長職、料理長職ですね。本社部門っていうのがほぼほぼないので。その中でも役割はいくつかに分かれてまして、店長職以外にもサービスマネージャーですとか、ソムリエマネージャーとか、ご自身で自分の専門知識を生かすっていうことを考えてるメンバーはいると思います。 特に当社は海外ゲストの対応が多いのですが、海外人材の方々っていうのはその海外ゲストの対応を得意としてる分野なので、そちら側に行きたいと思ってるメンバーは結構いそうですね。
── 特定技能の方たちを雇用するようになり、任せられる業務範囲も変わってきた中で、現場の雰囲気などに変化はありましたか?
やはり少し前に比べると社内文化と言いますか、グローバル慣れしてきたっていうのは非常に感じています。それこそ、飲食店の忙しい日のまかないって、カレーになりがちなんですけど、うちカレー3種類置いてるお店とかあるんですよ。「ノービーフ・ハラル」とか辛いの辛くないのとかも当たり前になったんですよね。
あとその主張をちゃんとする方がやっぱり多いので、日本人のちょっと遠慮がちなミーティングではなく、ちゃんと言うミーティングに最近はなっていると思います。意見の活性化はすごくいい方向に振ったんじゃないかなと思います。
── 宗教や文化的な配慮について、どこまで対応されているのでしょうか?
なんでも配慮をするというよりは、対応できること、できないことをきちんと理解してもらった上で働いてもらうようにしています。例えばハラル対応にしても、自身が食べない場合でも飲食店である以上お客様には提供は必須ですし、そういったお肉を扱う場所にいるんだよっていうことや、小さなテナントですとお祈りのスペースを設けたり、必ずピーク時間帯に抜けていいよってお約束をし兼ねるケースもやはりあるので。難しい部分は難しいと面接段階でお伝えをしております。 かなり詳細に、内定を承諾する前のタイミングで全部説明してるんです。「うちはこれはできる、これはできない」っていうのは伝えた上で、「承諾受けますか、どうしますか」というジャッジを1回挟むことはやっていますね。
── その段階で「ちょっと無理ですね」となる方もいらっしゃるんですか?
結構いらっしゃいます。「触らなければお肉も大丈夫」って言ってもその人によってレベル感が違くて、「下がってきたお皿にソースが残ってるそれもやだ」っていう方だと洗い場ができないとか。でも、洗い場は避けられないよっていう話などもあるので。細かいすり合わせを行い、事前に全て解消するようにしてます。
── 日本人の従業員の方々に向けて行ってる取り組みはありますか?
そうですね、基本的にはお店に行ってその海外人材の方と面談を行う時にも支配人などに同席させるなど、どちらかというと国民性のような全体像で伝えるというよりは個で伝えるっていうところの方が大事かなと思いますので、入社前の申し送りと言いますか、人物像の伝達を結構こまめにやるようにしています。
── お話を伺っていると、人手不足の解消というよりは、元々意図してらっしゃったグローバル化の方が進んだ状況という印象を受けます。
当社の場合はそちらになります。採用自体はここ3年ぐらいでかなり強化してきたんですよ。未来がこうなるよねっていうのがちょっとコロナ明けから見えてた部分もあったので、かなり採用に投資をしていました。
最近ではやはり、「海外人材の方にどう活躍していただきたいか」が当社の人材開発の軸になっていますので、言い方は悪いですけれども、「誰でもいいから働いてほしい」っていうことでは全くないです。
本当に当社事業の海外に向けたアプローチやツーリストの方々がどう楽しんでいただくかを我々と同じ目線で考えていける方、そういうグローバル視点での店舗マネージメントができる人材、そういったところが大事なポイントになってきております。
── 御社で働かれた外国籍の方に対しては、日本でずっと活躍して欲しいのか、それともゆくゆくは海外現地で活躍して欲しいのかなど、どういったイメージをお持ちですか?
海外店舗はフランチャイズ契約のため、日本から海外へ赴任という形で働くことはないですが、海外事業部のメンバーであれば、現地でサポートをする機会があります。そういった意味で海外事業部にいてもいいですし、もしかしたら人事をやる人間が出てくるかもしれません。他の日本人と全く本当に1mmも異ならず、その人の個性が生きるポジションで活躍して欲しいという思いがあります。
当社は2019年から雇用を推進しているので、特定技能活用の先進事例でありたいと考えていますし、「おもてなし国」と言われるこの日本で、海外人材も実は高いホスピタリティを発揮できるっていうところを自社の強みにしたいと考えています。
── 最後に、これから特定技能の雇用を検討してる企業様に向けて、メッセージをお願いします。
どういったキャリアプランで採用するか、目的と目標をちゃんと明確にした方が採用自体もうまくいくのではないかと思います。
それは、本当に人手不足で足りないところでなんとか企業活動の維持のために頑張って欲しいというやり方ももちろんあるでしょうし、当社のように完全にもう2号で切り替えて「将来日本で頑張るぜ」ぐらいの意気込みがないとだめよっていう目標設定かもしれません。逆に本当に3年ちょっと、割り切りの気持ちで来たんだっていう子が当社に入ると、求められすぎてしんどいんですよ。 そういったミスマッチをしないためにも、自社としてどういったポジションを用意できるのか、「何のために採用するのか」を具体的にすることが重要だと思います。
やはり海外人材の方にとっても「日本で就職ができて幸せ」という状態にするためにはそれを提示できることだと思うんですよね。 ここが明確になっていないで入社してしまうとやっぱりアンマッチにつながりやすく、逆に言うと企業のマイナスプロモーションになってしまいます。企業・特定技能外国人双方の目的をちゃんと明確にすることが私はすごく大事だと思います。
