【特集:宿泊業と特定技能】地域とともに歩む外国人材受け入れの未来 株式会社かりゆし(前編)

「観光立国」は日本の新しい経済の柱として重要な施策です。2026年3月に閣議決定された新たな観光立国推進基本計画では、2030年までに「訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円」の達成を目標として掲げています。

実際に、訪日外客は2025年にはコロナ前を大きく上回る4,286万人に達し、2026年も高水準で推移しています。

一方で、急速に増大する訪日外客を受け入れる宿泊事業者は、深刻な人手不足の状況が続いています。宿泊業における外国人材の雇用と活躍環境の整備は、観光立国を実現する上でも重要だといえます。

そこで、Linkup Journalでは新たに「宿泊業と特定技能」と題し、宿泊業における特定技能雇用の先進事例のインタビュー特集をスタートしました。

第一回は、沖縄県で6つのホテルを展開し、グループ9社で観光事業を推進する「株式会社かりゆし」へのインタビューをお届けします。

2027年に創業65年目を迎える同社は、「迎恩(げいおん)の心」を理念に掲げ、宿泊業として県内初の「沖縄SDGsプラチナ認証」を取得するなど、常に沖縄の観光産業を牽引してきました。

同社は早くから外国人材の採用と育成を推進。単なる労働力の穴埋めにとどまらず、地域や業界全体を巻き込んだ持続可能な共生モデルの構築に取り組んでいます。

本記事(前後編)では、特定技能をはじめとする外国人材の導入を検討・推進している人事・経営層に向けて、株式会社かりゆしの総務・財務経理などを専務として統括するとともに、一般社団法人 沖縄県ホテル協会の参事を務める玉那覇氏、人財本部の當眞氏、総務部の銘苅氏、そして現場リーダーとして活躍するネパール出身のナマラジ氏のインタビューをお届けします。

前編では、同社が直面する外国人材受け入れの構造的課題や制度のギャップ、そして現場での育成とキャリアパスの構築について深く掘り下げます。

制度の複雑さと不確実性にどう立ち向かうか――沖縄の観光現場が直面する外国人雇用の壁

ーーまずは、御社の事業概要と、外国人材の受け入れにおける観光業界全体の動きについて教えてください。

玉那覇:まず、「株式会社かりゆし」についてですが、弊社は1962年に創業し、2027年10月に65年目を迎えます。沖縄本島を中心に6つのホテルを中核とし、グループ9社で展開しています。近年は日本航空(JAL)出身の女性社長のもと、経営改革やSDGsの推進に注力し、県内の観光リーディングカンパニーとしての評価を受け、様々な機関と連携を行っています。

次に、観光業界の動きについてですが、沖縄県において、特に観光業界の人手不足は極めて深刻です。そこで(一財)沖縄観光コンベンションビューローや沖縄県ホテル協会といった業界団体と協力・連携し、現場で発生している課題を集約しています。

他社とお互いに競争し合うのだけではなく、「ライバルだけど敵ではない」という意識のもと、沖縄全体、そして日本全体で課題解決に取り組み、各政党や関係省庁へ政策提言を行えるよう調整を進めているところです。

ーー業界のリーダーとして課題解決に動かれる中で、具体的にどのような点が外国人雇用促進の障壁になっているとお考えですか。

玉那覇:根本的な問題は、日本全体としての一貫した方針や整合性の不足にあると考えています。外国人が日本で働く際には、特定技能や技能実習など多様な受入制度が存在しますが、制度ごとの方針が異なるため現場に困惑が生じています。

また、海外の報道等の影響により、偏った認識を持たれることへの懸念に対しても、行政と一体となって正しい仕組みを周知していく必要があります。国との交渉や議論を丁寧に解きほぐしながら、海外政府、例えばネパール政府などとも直接アプローチを図り、持続的な人材交流の形を作っていきたいと考えています。

さらに、宿泊事業者側の課題として「手続きの煩雑さ」が挙げられます。宿泊業界に関わる特定技能には「宿泊」「ビルクリーニング」「外食」などの分野がありますが、中小の事業者にとっては区分や申請手順が非常にわかりにくく、どこに相談すべきか一元的な窓口がないため導入に至らないケースが多発しています。県内では今後もホテル開発の申請が相次ぎ、需要が旺盛であるからこそ、こうした一元的な窓口の不在が大きな課題で、特定技能対象分野に「観光」を追加して欲しいと考えています。

アフターコロナの人手不足から始まった特定技能雇用

ーー特定技能雇用のきっかけと、御社における外国籍スタッフの在籍状況について教えてください。

當眞:当グループでは全従業員約800名のうち、外国籍スタッフが146名在籍しています(2026年8月末時点)。そのうち、特定技能(1号・2号)の在留資格を持つスタッフは52名で、外国籍スタッフ全体の35.6%を占めています。

本格的な外国人材の社員採用は2015年から行っていますが、特定技能を導入した最大のきっかけはアフターコロナにおける急激な人手不足です。当ホテルのある恩納村周辺には専門学校がなく留学生のアルバイト確保が困難な背景もあり、500室規模の客室清掃(ビルクリーニング)や調理補助の現場を支えるため、特定技能の雇用を開始しました。

ーー受け入れの手続き等の面で日本人採用との違いを特に感じる部分はありますか?

玉那覇・當眞:採用段階での手続き費用をはじめ、外国人材の受け入れには一定のコストがかかります。在留資格取得の代行手続きや入国支援など初期費用として1人あたり約10万円が見込まれるほか、登録支援機関への月額委託料(2万〜3万円程度)が発生します。さらに、病院同行や各種申請サポート、異文化コミュニケーションの構築など、定量化しにくい運用コストも存在します。

それでも、少子化や、リゾートエリアにおける生活面での不便さや交通アクセスの課題等もあり、日本人応募者の減少が続く中で、外国籍スタッフは欠かせない存在です。弊社では年間休日を10日増やすとともに基本給を10.42%改善するなど労働環境の抜本的改革を進めつつ、国籍を問わず、すべての社員が安心して長く活躍できる環境づくりに注力しています。

制度の壁を乗り越える社内育成と、描けるキャリアパスの構築

ーー特定技能における在留資格の制約や、外食分野の受入停止といった変化に対し、現場ではどのような影響や課題を感じていますか。

當眞:社内においては既存の従業員を現在の在留資格で適切に雇用できていますが、課題となるのは「特定技能2号」を目指す段階です。特定技能2号への移行を希望する人材は非常に多いものの、試験の難易度や申し込み要件が厳しく、実態と乖離している部分があります。その結果、「2号の在留資格に移りたいのに移れない」「試験すら受けさせてもらえない」という状況が発生しています。

せっかく仲間として迎え、地域コミュニティに根付いて働いてくれている人材が、制度上の理由だけで帰国せざるを得ないのは、本人にとっても育ててきた企業にとっても非常に大きな機会損失です。

また、留学生の採用出口についても変化が見られます。従来の「技術・人文知識・国際業務(技人国)」は基準が厳格化している側面があり、留学生側も「特定技能(宿泊)」の取得へとシフトしつつあります。学校側での育成が進めば企業側も採用しやすくなりますが、今後宿泊分野でも受入上限に達した場合にどう対応すべきか、注視していく必要があると考えています。

ーー現場での教育や、長期就労に向けたスキルアップ・評価の仕組みについてお聞かせください。

ティマルシナ ナマラジ 氏(以下、ナマラジ):現場では先輩・後輩間での指導や、業務におけるトライアンドエラーを通じて学びを深めています。学ぶ意欲のあるスタッフにはオンライン講座や資格取得を勧めています。例えば日本語検定合格や資格取得など成果があった際には、全体で称賛する仕組みを取り入れ、他のスタッフの学習意欲を刺激しています。

銘苅:特定技能2号の受験には「管理・リーダー業務の実務経験」が要件とされるため、組織としてどのように経験を積ませていくか、そのサポートをどのように行うかを検討しています。2号の試験要件や受験開催日数、申請窓口や申請手順は分野(宿泊・外食・ビルクリーニング)ごとに異なり企業側の対応負荷も高いですが、対話を重ねてしっかりと勉強を後押ししています。現在すでに社内で3名の特定技能(外食分野)2号の合格者が誕生しており、周囲にとって非常に良いロールモデルとなっています。

玉那覇:全社的に、評価制度の透明化にも取り組んでいます。以前は「どう頑張れば評価されるか」が見えにくい側面がありましたが、明確な人事評価制度と役割等級制度を導入し、給与体系(給料表)をオープンに開示しました。これにより、「自分の頑張りでグレードが上がり給与が増える」という将来設計が明確になりました。そのため、車の購入や本国での資金計画も立てやすくなり、現場のスタッフからも高評価を得ています。

 沖縄県の宿泊業界としての外国人雇用に対する課題意識の他、株式会社かりゆしにおける特定技能雇用の現状や制度上の壁、評価制度を通じたキャリアパスの可視化についてお伝えしました。

後編ではさらに同社の取り組みにフォーカスし、国籍を超えた多文化共生の組織づくりの実践や、熊本地震・ネパール洪水等に対する国際貢献活動、そしてこれから特定技能の導入を目指す企業に向けた実践的なアドバイスをお届けします。

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