【インタビュー】文化の壁を越え、伝統の味と未来をともに創る。ラーメン札幌一粒庵が実践する「特定技能」外国人材の育成と共生

街の飲食店を訪れると、熱心に接客や調理にあたる外国籍スタッフの姿を見かける機会が一段と増えました。いまや日本の食空間において、彼ら・彼女らの存在は店舗運営の屋台骨のひとつといっても過言ではありません。しかしその一方で、「具体的な受入手順が分からない」「言葉や習慣の違いにどう対応すべきか」「どのように長期的なキャリアを描いてもらうか」といった実務上のハードルを感じ、雇用に踏み出せない店舗や事業者が数多く存在しているのも事実です。

こうした課題に対し、早くから独自のアプローチで外国人雇用に向き合ってきたのが、札幌駅前で親しまれる「ラーメン札幌一粒庵」を展開するグラシアス有限会社です。

今回は代表の大島陽氏に、自身の海外体験に由来する外国人材への想い、そして多様性を包み込む経営理念についてお聞きしました。

「この人と働きたい」から始まった、特定技能受入れ


-まずは、御社の事業概要について教えていただけますでしょうか。

私たちはJR札幌駅南口からすぐの場所にあるオフィスビルの地下1階で、約25坪・15席ほどのラーメン店「ラーメン札幌一粒庵」を経営しています。小規模な店舗ですが、月間で約6,000人、年間で5万人を超えるお客様にご来店いただいています。


現在の場所に移転して約20年になりますが、移転前は有名な繁華街である「すすきの」に店を構えており、夜の時間帯が中心でした。移転当初はオフィスビルの地下という立地から「近隣のビジネスマン向けの社員食堂的な役割」を想定しており、客層も地元のオフィスワーカーが8割以上を占めていました。
しかし、交通の要所である札幌駅周辺は、東京で言えば「新宿駅」や「羽田空港」のような都心のハブであり、年々外国人比率が上がっていきました。


特に2018年のラグビーワールドカップや、東京2020オリンピック(札幌でのマラソン・競歩開催)に向けたインバウンド施策を経て、海外からの渡航者は大きく増えました。コロナ禍の影響を受けた期間を経て、現在では2019年当時を凌ぐほど旅行者が訪れており、特に夕方以降の時間帯は外国人のお客様が過半数を占めることも珍しくありません。

現在は、特定技能の従業員が3名、正社員として活躍していますが、そうした時間帯の海外の方への接客対応では、特定技能の従業員が頼りになっています。


-国際色豊かなお客様の対応に特定技能の従業員の方が活躍していらっしゃるんですね。特定技能の雇用はどのようにして始まったのでしょうか?


2017年6月から上海でフランチャイズ店舗を展開していたのですが、そのお店が2019年6月に閉店しました。それに伴って、札幌店で研修を受けて現地で働いていた台湾出身の30代後半のベテランシェフが職を失いました。一方で札幌の本店は人手不足で多忙を極めていました。そこで両者の意向が一致して日本での雇用を目指すこととなりました。


ただ、その時点では日本語もほぼ話せない状態でした。そこでまずは語学学校への留学ビザで来日することになったのですが、2020年4月4日の入学の直前、4月1日に新型コロナウイルス感染拡大に伴う台湾からの渡航制限が発令され、来日が不可能な状態に陥りました。


それでも諦めず、現地と札幌をオンラインで繋いで約8ヶ月間、日本語学習を継続。渡航制限が一時緩和された同年12月20日、カチカチに凍った真冬の札幌へようやく渡航を果たしました。
来日後は留学生としてのアルバイトの範囲で日本語の勉強と店舗勤務の勉強を継続し、特定技能制度の資格試験を受け、無事に「特定技能1号」へ移行することができました。

海外経験に基づく「思い」に根差した雇用の拡大とキャリア形成への展望


-特定技能雇用の開始は、「特定技能制度を使って人を雇う」目的ではなく、その方を雇用するために制度を活用した、という事ですね。そこから、現在のように特定技能の社員の方の雇用を継続して増やしていった背景を教えてください。


ひとつは採用の課題です。若手の日本人を採用し長期的に定着してもらうことは非常に難しい状況が続いています。現代の教育現場や家庭環境ではホワイトカラーの職種が志向される傾向があり、体力や接客現場での献身が求められるサービス業は忌避されやすいためです。
私にも息子がおりますが、学校や親が「ラーメン屋で頑張りなさい」と背中を押すケースは非常に珍しいのが現実です。求人誌や各種雇用枠(高齢者・障害者等)を含めた全方位的な募集を実施する中で、最も熱意をもって応募してきたのが海外からの人材でした。

そしてもうひとつ、私が外国人材の受け入れに熱心な根底には、自身の生い立ちがあります。1964年生まれの私は、芸術家であった父親の仕事で、1965年から1970年までの5年間、ベルリンの壁で緊迫していた冷戦下のドイツで過ごしました。国境を越える際には銃殺のリスクすらある時代でしたが、現地社会は外国籍である父親を教育し、最終的に「大学教授」というステータスで登用してくれました。日本で言えば「お箏や雅楽といった伝統芸能のエキスパートとして外国人を大学教授にする」ような非常にレアな事例です。


父の他界に伴い帰国しましたが、当時の記憶から「かつて自分たちが異国で受けた教育や温かい支援を、次は日本にやってきた若者たちに提供したい」という恩返しの想いが生まれました。また、私と妻がカトリックの信徒であり、身近に外国人宣教師や教会との接点があったことも、国境を意識しないボーダーレスな価値観を支えています。


-そうした思いを持って、受入れをされているんですね。店舗では特定技能の従業員の皆さんにどのような業務を任せ、どのようなキャリアステップを歩んでもらおうと考えていますか。


現在、店舗では3名の特定技能正社員(ミャンマー国籍)をはじめ、特定活動ビザのスタッフが1名、北海道大学の留学生(インド人)が1名働いており、現場の約4割を外国人材が占めています。
店舗オペレーションでは特定の仕事のみに専念させるのではなく、全員が店舗全体の業務をこなせるようジョブローテーションを実施しています。仕込み、対面キッチンでの調理、接客やレジ会計・売上管理など、各自の適性を活かしつつも全工程を経験させる方針をとっています。


この取り組みは、外食業の特定技能評価試験(接客・店舗運営・衛生管理・調理技術)の範囲をカバーするものであり、全員が「特定技能2号」を取得することを目標に設定しています。スタッフの言語能力向上もめざましく、すでに2名が日本語能力試験「N2」を取得済みです。


-みなさん高い日本語能力を身に着けていらっしゃるんですね。とはいえ、外食業では独特の用語等もあったりすると思います。まだ慣れない段階でそうした専門的な日本語への対応等はどのようにされていたのでしょうか?


これは、外国籍の従業員に向けて、というより、経験の浅い日本人スタッフや高齢のスタッフ、誰であってもすぐに問題なく働けるように、環境を整備しています。
例えば、注文は券売機にする、券売機のUI(表示内容や画像配置)を工夫するなど、業務プロセス自体をシンプルに整理・標準化しています。また、先ほどもお話ししたように夜間のインバウンドが多い時間帯にはスタッフの「英語力」が接客面で大きな強みとなっています。
英語力については、採用の段階で重視したポイントでもあります。


-業務の設計を工夫しながら、従業員のみなさんが、網羅的に店舗運営を学べるようにされているんですね。今後、特定技能従業員の方が独立したり事業を継承していくようなキャリアも描いていらっしゃるのでしょうか。

まず、ラーメン札幌一粒庵の目指す姿は、急速な多店舗展開ではなく「一つのブランドを長く守り、100年引き継いでいくこと」です。その一環として、多様な文化や背景を持つ人々に向けた「ワークダイバーシティ」と「フードダイバーシティ」を推進しています。


豚肉やアルコールを使用しない「ムスリムフレンドリー」なラーメンや「ヴィーガン」対応メニューを提供しており、ウェブ検索等を通じて世界中から多様な食習慣を持つお客様が訪れます。まかないとしてインド人スタッフがヴィーガンラーメンを食べたり、ミャンマー人スタッフと交流したりしています。でもそれは、厳格な宗教認証の取得を目的とするのではありません。


もともと一粒庵が提供してきたラーメンの文化を体験することも大事だと考えています。
使用原材料を透明性の高い形で開示し、お客様自身が選択できるように配慮しています。
特定技能スタッフの将来像としては、2号資格の取得は中期の目標として置いています。それによって長期的な在留や家族帯同の道が開けますし、彼らにとっても選択肢ができるので。

その中で、マッチする人はのれん分けなどもあるかもしれませんが、現時点ではそこをはっきり決めているわけではありません。
ただ、従業員たちに将来の可能性の部分は今から伝えているので、適性や意向と合わせてその点も柔軟に支援していきたいと考えています。


-ここまで、ご自身の海外経験をベースとした国際感覚で、外国籍の方が活躍できる店舗づくりについて伺いました。特定技能の在留資格の更新や定期的な面談、各種届出などのサポート体制はどのように構築されているのでしょうか。


現在、特定技能外国人に関わる支援業務は、札幌駅近くに拠点を置く専門の登録支援機関に委託しています。
かつては何人もの行政書士を探して手探りで進めていた時期もありましたが、現在お世話になっている支援機関は非常にリーズナブルなコストでありながら体制が極めて優れています。

その登録支援機関にミャンマー出身のスタッフが在籍しており、当店のミャンマー人スタッフを母国語で手厚くケアしてくれています。徒歩ですぐ訪ねていける距離に信頼できるパートナーが存在することで、過度な自社負担やコストを抑えながら適切な管理体制を構築できています。


-最後に、これから特定技能外国人の雇用を検討している企業や経営者の方々へ、アドバイスやメッセージをお願いいたします。


私自身は、先ほどお話したように海外生活の経験があることから、旅行とは違う、入国に対するイミグレーションの感覚を肌で理解している部分もあります。しかし、特定技能制度を運用する際、経営者が最初からその点を理解し、すべての法手続きを独力でこなす必要はないと考えています。
重要なのは、出入国管理上のコンプライアンスを正確に遵守することです。そのために、登録支援機関や行政書士といった専門家に相談して対応していくことが必要だと思います。

また、日本は島国である地理的条件から異文化と直接接する機会が少なかった背景があり、個々の持つ「アイデンティティ」への意識が希薄になりがちです。しかしワールドスタンダードにおいては、多くの国が地続きで他国と隣接しています。その中で、衝突した歴史もありながら、国際認識を育ててきています。それによって誰もが異なる歴史や宗教、価値観に基づいたアイデンティティを持っています。


ですが、日本人はアイデンティティへの認識が希薄なために、他者にアイデンティティがあるということを、あまり意識してないことが多いと思いますし、意識していないと尊重ができません。
自らの軸を持ちつつ、相手が大切にしている文化や背景を尊重すること。過剰に迎合するのではなく、相互に尊重し合いながら「恩を受け、恩を授け合う」人間関係を築いていく姿勢こそが、外国人スタッフの能力を引き出し、ともに働く上で欠かせない基盤となると考えています。

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