【監修】
長江 修
大手新聞社ニュースサイト制作や企業広報を経て行政書士資格を取得し、2017年に東京・上野にてON行政書士事務所を開業。「皆様の暮らしやビジネスの良きパートナー」であることをモットーに、【在留資格の書類作成・申請取次】をはじめ、【建設業許可】【古物商許可】などの各種行政手続き書類作成・申請代理を中心に展開。最近では【持続化給付金】【家賃支援給付金】などコロナ支援制度の対応も多い。また、経歴を活かし【ホームページ制作】など行政書士以外の業務も取り扱う。
少子高齢化に伴う日本の人材不足の問題を解決するため、2019年4月より「特定技能」という新しい在留資格が新設されました。人手不足に陥っている14業種に限って、活用することが認められている「特定技能」制度を活用したいとお考えの企業も多いことでしょう。
ところが、日本政府が想定した特定技能の目標人数は2020年3月末時点で40,000人だったものの、現状の在留状況は全体で8,769名(2020年9月末時点)となっており、目標とする人数を大きく下回っています。
世界規模の新型コロナウイルス感染症拡大の影響も大きいですが、採用に関する問題が多いことも目標数を下回る原因ではないでしょうか。実際に海外人材を雇用するとなると、日本人の採用とはコストやフローが異なったり、配慮しなければならない問題も数多くあります。ここでは、特定技能外国人の採用にかかるコストについて解説します。
現在の特定技能制度の利用状況について
2019年4月から新設された特定技能ですが、その制度はまだまだ活用され切れていない印象です。前述の通り、政府が掲げた特定技能外国人の目標人数を大きく下回っています。まずはその要因について見ていきましょう。
特定技能制度の現状
2019年4月に導入された特定技能制度について、政府が設定した2019年度の受け入れ目標は最大4万7,550人でした。しかし、制度導入から2020年4月までの約1年間で、特定技能外国人は4,500人程度。受け入れ目標の1割に達していないのが現状です。
業種別にみると、受け入れが多いのは飲食料品製造業、農業、産業機械製業。一方で宿泊、介護、漁業の受け入れ数が少なく、まだまだ制度が十分に活用されていない印象で、分野ごとに差があることがわかります。
受け入れ数が最も多い飲食料品製造業の分野は、特定技能制度の開始以前より海外人材の採用を積極的に行なっている組織が多いことから、特定技能の制度の活用にいち早く乗り出した企業が多いためであると考えられます。
特定技能制度の利用数が伸び悩む要因とは
制度の整備や周知が滞ったことも要因ではありますが、一番の要因は「制度の複雑さ、煩雑さ」、さらに裏の要因としては「技能実習は転職が原則不可だが、特定技能は可能である=人手不足の企業にとっては人材の流動性が低い技能実習の方が使い勝手が良い」ということもあります。
・外国人を採用したことがないのでイメージが湧かない
・通常の人件費以外に、採用・教育・支援のコストが加わり、日本人のアルバイト採用でなんとかしてしまっている。
・新型コロナウイルス感染症の世界的な影響で人の移動が制限され、試験や受け入れが中断されている。
・申請書類の作成が煩雑で審査に時間がかかるうえに、技能と日本語の試験実施が遅れている。
新型ウィルスの影響や試験、審査については企業側では解決が難しい問題ですが、イメージやコストに関してはまず情報を得て受け入れるか否かを判断したり、課題を解決することが可能ではないでしょうか。
・相場はどれくらいなのか
・どういった費用が発生するのか
・コストを抑える方法はあるのか
特定技能外国人の採用に関して、以上のような疑問を持たれているご担当者や企業は多いことでしょう。そこで、ここからは海外人材を採用する際に必要な項目とそれに伴うコストについて解説します。
なお、海外人材で期待できることや、注意したい点・想定される課題に関しては別の記事で解説しているため、そちらをご参考ください。
項目やコストが異なるため注意が必要
採用コストとは、人を雇うときに発生する費用のことです。1名のみを採用する場合と、複数人を採用する場合では費用が異なりますが、【 採用コストの総額 ÷ 採用人数 】で一人当たりの採用コストが算出できます。
特定技能外国人を採用するには、他の在留資格を保持する海外人材や日本人を採用するのとは違うプロセスや費用が発生します。
外部コストと内部コスト
採用コストは大きく二つに分けられます。ひとつは外部コスト(社外コスト)です。求人のための広告費、人材紹介の会社に支払った手数料、その他社外に委託した業務に関する費用を指します。
もう一つは内部コスト(社内コスト)で、人材を採用するために充てられた人件費がそれに当たります。応募者の書類審査、スケジュール管理、面接、採用後の書類作成や手続きにかかった社内の工数が含まれます。
特定技能外国人の採用に必要な具体的な項目とコスト
それでは以下で、具体的な項目とコストについて見ていきましょう。
特定技能(在留資格)の申請委託費用
特定技能(在留資格)の申請は自社で対応するか外部に委託するかという選択肢があります。しかし、提出書類がおそよ70ページ以上とかなり多く、書類作成のルールが複雑なので、専門の行政書士に委託するケースが多いようです。特定技能の申請委託費用の相場は10〜20万円ほどです。
ちなみに在留資格に関わる費用は外国人本人ではなく、受け入れ企業が負担することが大半です。Linkusでは在留資格申請書類生成がプラットフォーム上でできるため、膨大な書類作成に要する工数を大幅に減らすことができます。求職者1人の管理にかかる費用が月額たったの500円(税込550円)ですので、費用もぐっと抑えられます。
送り出し機関への紹介費と教育費
日本国外に住んでいる外国人を雇用する場合、“送り出し機関”を仲介する場合があります。その機関に支払う紹介費と教育費(日本語やビジネスマナー等)は、送り出す側の国によって大きく違います。ミャンマーやベトナムは30〜40万円ほどであるのに対し、フィリピンは50〜100万円と考えておきましょう。
金額の差が大きい理由は、ミャンマーやベトナムでは送り出し機関が求職者から手数料を徴収できるためです。フィリピンは求職者から手数料の徴収ができないため、日本企業が負担する額が多くなります。詳しくは特定技能制度に関わる協力覚書でご確認ください。
生活支援に関する費用
特定技能外国人を雇用する際、事前ガイダンス、出入国時の送迎、生活オリエンテーション、住居確保・生活に必要な契約支援、住居の確保や日本での生活に必要な契約関係、日本語学習や日本人との交流機会の提供などの生活支援に関する業務が必要です。
これらの支援業務は社内で受け持つこともできますし、登録支援機関に委託することもできます。委託する場合の相場は月額3万円前後と考えておきましょう。
渡航費
先にも説明しましたが、外国人人材に海外から来日してもらう場合、渡航費がかかります。時期、距離、航空会社によって違いますが、10〜15万円ほどと考えておきましょう。送り出し先の国によってガイドラインが異なるため、渡航費を誰が負担するのか変わる場合があります。雇用する外国人の国の規制についてチェックするようにしてください。
なお、下の項でも説明しますが、海外人材の採用ルートによって渡航費が異なります。すでに日本に住んでいる人材を雇用する場合は、渡航費はかからないものと考えていいでしょう。その代わりに、日本国内での引っ越し費用がかかる可能性があります。
健康診断受診費
特定技能制度を活用する外国人人材は、健康診断を受けなければなりません。日本に入国する前に、「日本で行う予定の活動を支障なく行うことができる健康状態にある」ということを証明するために、医師の診断を受ける必要があるのです。過去に、治療目的で外国籍の方が日本へ渡航することが問題となった経緯があり、特定技能制度の要件として健康診断が組み込まれました。健康診断票の様式は以下です。
すでに日本に住んでいる留学生や技能実習生が、特定技能へと在留資格変更をする場合は、日本国内の医療機関で健康診断を受けられます。(技能実習生の場合、実習先の定期健康診断の結果を利用可能で、新たに健康診断を受診する必要がない場合もあります。)健康診断受診費は受け入れ企業が負担することも多く、相場は1〜2万円ほどです。
人材会社への採用手数料
求職者の情報を得るために、人材紹介会社を利用する企業も多いかと思います。また、有料の広告を利用する場合もあるでしょう。採用手数料は採用する際に合意した年収の30〜40%で、有料の広告媒体の利用は、月額5〜10万円ほどです。日本人を採用した場合と大きな違いはありません。
年収300万円の人材を雇用した場合のコストイメージ
特定技能外国人の採用に必要な具体的な項目とコストについて上記で説明をいたしました。それを参考に【年収300万円の外国人人材を海外から呼んで雇用した場合】の1年間コストイメージを見てみましょう(ただし、下記は一例であり、諸状況によって金額は大きく異なる可能性があります)。
項目 | 費用 |
---|---|
在留資格認定証明書交付申請の外部依託費 | 10〜20万円 |
送り出し機関への仲介料 | 30〜100万円 |
登録支援機関委託費(3万円/月として) | 36万円 |
渡航費 | 10〜15万円 |
健康診断受診費 | 1〜2万円 |
人材会社への採用手数料(年収の30%で計算) | 90万円 |
合計 | 177〜263万円 |
忘れてはならない内部コスト
一般的に、人材を採用するには求人に関する資料や書類を作成したり、人材紹介会社や求職者とコンタクトを取ったり、面接を実施したりと、様々な対応が求められます。加えて、特定技能制度を活用して外国人人材を採用する際、日本人を採用するよりもしなければならない業務が増えることは確かです。その時にまず確認したいことはこちらです。
・特定技能取得に必要な日本語能力試験や技能試験に合格しているか
・日本国内在住者の場合は、所有している在留資格の期限が切れていないか
・留学生の場合はアルバイトの時間が週28時間を超えていないか
上記について問題がなければ特定技能の申請手続きを始められるわけですが、必要な書類がおよそ70ページ以上とかなり多く、専門知識が必要です。さらに、外国人の日本での生活を支援する業務も必要です。
【1】3時間程度の事前ガイダンス
【2】出入国する際の送迎
【3】住居確保・生活に必要な契約支援
【4】少なくとも8時間以上の生活オリエンテーション
【5】公的手続き等への同行
【6】日本語学習の機会の提供
【7】相談・苦情への対応
【8】日本人との交流機会
【9】(企業の都合による場合)転職支援
【10】定期的な面談・行政機関への通報
これらの実施状況について地方出入国在留管理庁に届出や報告する義務もあります。さらに、登録内容に変更が生じた場合、不測の事態が起こった場合の対応も求められます。
特定技能外国人を雇用するためのこれらの内部業務を踏まえると、かなりの業務量が発生するでしょう。社内外から2名ほどの人員を補填する人件費が確保できるのか、もしくは外部に委託できる業務は委託するのかの判断は早めにする必要があります。
在留資格申請や支援業務は工数がかかるうえに専門知識も必要となるため、外部に委託するのがスムーズでしょう。外国人雇用には助成金制度が設けられているため、対象となる場合は活用することを視野に入れてみてください。Linkusでは膨大な書類作成のサポートだけでなく、資料等のアップロードも可能です。一度アップロードが完了すれば、必要とするタイミングでダウンロードが可能なので、作業をよりスムーズにすることができます。
ルートによって採用コストが変わる
特定技能外国人を採用するにあたって、日本に住んでいる外国人を雇用することと、海外に住んでいる外国人を日本に呼んで雇用することとでは、コストが異なります。その違いについては以下です。
日本国内に住んでいる外国人を採用する場合
すでに日本国内に住んでいる留学生や技能実習生などを雇用する場合、在留資格の変更費用が必須です。加えて、引越しが必要であればその費用がかかります。在留資格変更申請を外部に委託すると、その費用は10〜20万円ほどです。
日本国外に住んでいる外国人の場合
日本国外に住んでいる外国人を雇用するには、在留資格の申請(外部委託で10〜20万円)のほか、来日するための渡航費(10〜15万円※時期や距離、航空会社によって異なる)が発生します。
また、日本国外に住んでいる外国人を雇用する場合、“送り出し機関”の仲介が必要となる場合があります。“送り出し機関”とは人材の紹介とともに日本語やビジネスマナー等の教育を行っている機関で、仲介してもらう際に【教育費+仲介手数料(年収の30〜40%程度※国によって異なる)】が発生します。
特定技能制度を用いて日本で働きたい外国人と日本の企業が直接やりとりができたとしても、送り出し機関への仲介手数料を支払わなければならない場合がありますのでご注意ください。送り出し国によってそのガイドラインは異なるため、特定技能制度に関わる二国間覚書に沿って受け入れを行ってください。特定技能の採用や管理・支援については、ぜひLinkus(リンクス)にご相談を。
採用コストを抑えるために
これから少子高齢化がさらに進み、日本国内で人材を確保することがますます難しくなることが予想されます。今のうちに特定技能制度を活用して、海外人材を採用するスキーム作りをしておくことは重要だと考えられます。そこで、特定技能外国人の採用コストを抑える方法についても解説します。
◆紹介で人材を募る:
すでに海外人材を雇用している場合、その方に求職者を紹介してもらうのもひとつの方法です。
日本に住んでいる留学生や技能実習生の友人や知り合いで、仕事を探している方がいないか確認してみましょう。知人が働いている企業であれば、求職者側も安心して働けるかもしれませんし、雇用する側は渡航費や人材紹介会社に支払う費用を抑えることができます。
◆内部コストを見直す:
外部に委託する費用はなかなか変えられませんが、内部コストを見直すことは工夫次第で可能でしょう。社員2名で対応していたところを1名にできないか、外部に委託した方がコストを抑えられるものはないかなどを細かくみていきます。
◆求職者の辞退や離職者数を抑える:
せっかく時間とコストをかけて採用を進めても、求職者が途中で辞退してしまえば無駄になってしまます。それを防ぐために、求職者にわかりやすい言語で説明したり、連絡をこまめに取ったり、ビザの申請等を速やかに行うなど、真摯に対応しましょう。
まとめ
特定技能外国人の採用には、日本人の採用時にはない業務やコストがあることは事実です。在留資格の申請、渡航、日本での生活支援、出入国時の送迎、送り出し期間への仲介手数料などがそれに該当します。外国人の出身国や時期によって費用に差が出てくるため、ひとつひとつ確認をしましょう。
また、外国人人材の雇用にあたって企業内部での工数確保や人件費の捻出も必要です。専門知識が必要な業務に関しては外部機関のノウハウを活用するのがおすすめです。特定技能の採用や管理・支援などはぜひLinkusにご相談ください。