【監修】
長江 修
大手新聞社ニュースサイト制作や企業広報を経て行政書士資格を取得し、2017年に東京・上野にてON行政書士事務所を開業。「皆様の暮らしやビジネスの良きパートナー」であることをモットーに、【在留資格の書類作成・申請取次】をはじめ、【建設業許可】【古物商許可】などの各種行政手続き書類作成・申請代理を中心に展開。最近では【持続化給付金】【家賃支援給付金】などコロナ支援制度の対応も多い。また、経歴を活かし【ホームページ制作】など行政書士以外の業務も取り扱う。
日本国内で深刻化する人手不足への対策として、2019年度より、新たな在留資格、「特定技能」の運用が開始されました。従来の在留資格とは異なる試験や資格など、新たな運用に対する期待が広がっています。
ただし、「特定技能の在留資格があれば、どんな職業にでも就くことができる」というわけではありません。ここでは、特定技能で在留する場合に就業できる業種と、その概要について説明します。
特定技能の対象業種について
在留資格「特定技能」の新設の目的のひとつが「国内の人材不足解消」です。在留資格を得た人材が就業できる業種は、その目的に適った制限があります。
特定技能1号の資格は、次のように発表されています。
「不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する相当程度の知識または、経験を要する技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」
このことから、特定技能で就業できる業種は、「不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」。つまり、現時点で人手が不足している、あるいは近い将来人手不足が予測される分野の業種が指定されていると考えられます。
▼特定技能について詳しい解説はこちら▼
特定技能の業種一覧
特定技能で就業できる業種のことを、「特定産業分野」と呼びます。この特定産業分野には2020年時点で次の14分野が指定されていましたが、2022年の4月に12分野になりました。素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業が統一され、【素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業】という3つの分野が統合されたのです。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
特定技能には1号と2号がありますが、2号資格で就業できる業種はこのうち「建設」「造船・舶用工業」のみ。1号資格の場合は12分野すべてに就業が可能です。
介護
試験区分数:1
従事する業務:
・身体介護など、これに付随する支援業務
高齢化が進む日本において、介護業界は今後最も人手不足が懸念される業種のひとつです。介護施設にて利用者の身体的介護や支援業務に従事することが想定されています。具体的には、食事や入浴・排泄といった、日常生活動作の補助、機能訓練の補助などです。
基本となる国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験(N4以上)の他、介護日本語評価試験の受験が必要です。
ビルクリーニング
試験区分:1
従事する業務:
・建造物内部の清掃
オフィスビルや居住用ビルの共用部分の清掃業務も、特定技能で従事できる仕事のひとつです。現在、日本国内のビルクリーニング従事者の4割近くが高齢者だと言われています。高齢者の社会進出が進み、就業先の選択肢が広がる→清掃業の人材不足が懸念されているのです。
清掃機械のような自動化の取り組みと平行して、幅広い年齢層の従事者の確保が期待されています。
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
試験区分:3
従事する業務:
- 鋳造
- 鍛造
- ダイカスト
- 機械加工
- 金属プレス加工
- 工場板金
- めっき
- アルミニウム陽極酸化処理
- 仕上げ
- 機械検査
- 機械保全
- 溶接
- 塗装
- 鉄工
- 工業包装
- 電子機器組み立て
- 電気機器組み立て
- プリント配線板製造
- プラスチック成形
- 工業包装
元々3つ産業分野に分かれていた業種が、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(工場製品製造業分野)として統合されました。
それに伴い細かく分かれていた区分なども統合し、試験などもシンプルに整理がされたことで、これまでの経験作業のみではなく、幅広い業務への従事の可能性が広がりました。
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(工場製品製造業分野)は、日本の製造業を支える重要な産業の一つですが、すでに深刻な人手不足に悩まされている産業でもあります。高い技術や経験が必要な職種であり、近年の目まぐるしい技術革新にともない、この分野の重要性や必要性は著しく高まっているため、特定技能の制度を利用した人材の拡充に期待が高まっています。
建設
試験区分:18
従事する業務:
- 型枠施工
- 左官
- コンクリート圧送
- トンネル推進工
- 建設機械施工
- 土工
- 屋根ふき
- 電気通信
- 鉄筋施工
- 鉄筋継手
- 内装仕上げ/表装
- とび
- 建築大工
- 配管
- 建築板金
- 保温保冷
- 吹付ウレタン断熱
- 海洋土木工
建設業界も慢性的に人手が不足している業種です。外国人労働者の雇用にあたって、労働者の母国語での契約書面の交付を行うことや日本人と同等以上の報酬を安定的に支払うことなど、細かな条件が規定されています。
造船・舶用工業
試験区分:6
従事する業務:
- 溶接
- 塗装
- 鉄工
- 仕上げ
- 機械加工
- 電気機器組み立て
四方を海に囲まれた日本にとって、船に関わる業務は非常に重要です。特に、大きな港のある地方での人材需要が大きい業界。都会に比べて人材確保の難しい地域で人材が必要なケースも多々あり、外国人人材の流入に強い期待が寄せられます。
自動車整備
試験区分:1
従事する業務:
・自動車の日常点検整備、定期点検整備、分解整備
国民の生活の足である自動車業界においても、整備をはじめとする現場作業の人材不足が深刻化しています。自動車関連産業は日本を代表する産業の一つであり、世界からの注目度も高い分野。スキルを身につけるため技能実習で在留している外国人も多く、今後外国人人材の重要性が増すことが予想されます。
航空
試験区分:2
従事する業務:
- 空港グランドハンドリング(地上走行支援業務、手荷物・貨物取扱業務)
- 航空機整備(機体、装備品等の整備業務など)
航空業界において、運搬作業員や地上業務、整備業務といった一部の職種で人材が不足しています。特に、近年の訪日観光客やLCCの増加も航空業界の人材ニーズを押し上げています。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に動きが落ち込んでいる業界ではありますが、将来的にはニーズの回復と人材ニーズ増大が期待されます。
宿泊
試験区分:1
従事する業務:
・フロント、企画・広報、接客、レストランサービスなどの宿泊サービスの提供
訪日観光客の増加に伴い、宿泊業の人材ニーズも増しています。新たな宿泊施設も次々に建設されており、従事者数の増大が急務となっています。
航空業と同様、社会情勢による影響は一時的に見られますが、長期的に見ればまだまだニーズが伸びるであろう=人材が必要な業界と言えそうです。特定技能においては、風俗営業関連の施設での就業や接待を行わせないようにとの規定があります。
農業
試験区分:2
従事する業務:
- 耕種農業全般(栽培管理、農作物の集出荷・選別など)
- 畜産農業全般(飼養管理、畜産物の集出荷・選別など)
言わずと知れた、国民の生活と命を支える分野の一つですが、残念ながら人手不足は深刻です。国内人材の確保に向けた取り組みと合わせ、特定技能の制度を利用した外国人人材確保への動きも重要視されてきています。
特定技能の外国人を雇用するには、労働者を一定以上雇用した経験がある農業経営体である必要があるとされています。ちなみに特定技能では直接雇用が基本となりますが、農業に関しては派遣での就業も可能です。
漁業
試験区分:2
従事する業務:
- 漁業(漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保など)
- 養殖業(養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成・収獲・ 収穫・処理、安全衛生の確保など)
島国である日本では、漁業も重要な産業の一つです。農業と並んで、国民の食生活を支える産業ですが、人材不足は年々深刻化しています。在留資格試験としては、「漁業」と「養殖業」の試験区分が異なるという点に注意が必要です。
飲食料品製造業
試験区分:1
従事する業務:
・飲食料品製造業全般(飲食料品(酒類を除く)の製造・加工、安全衛生)
生活に直結する分野として、飲食料品の製造は安定的にニーズのある分野です。機械化が進んでいるものの、品質管理やライン管理など、人の手が必要な業務はゼロにはできません。最低限の人材で稼働させていてもなお人材不足が懸念される業種です。
外食業
試験区分:1
従事する業務:
・外食業全般(飲食物調理、接客、店舗管理)
生活スタイルや食文化の変化に伴い、外食業は日本人の生活に欠せないものとなりました。外食産業を支える人材も、日本の社会を支えるために確保が必須です。しかし、外食業の就業者は非正規率や離職率が高く、人材ニーズに対して安定した雇用が実現できていない分野でもあります。ちなみに、特定技能では、風俗営業関連の店舗での就業・接待は行ってはいけないことになっています。
まとめ
特定技能は国内の人材不足を解消するために作られた制度なので、対象となる分野は主に「人材不足が問題視されている業種」です。
すでに国内の人材ニーズに合わせて対象業種や職種の拡大も進められており、今後も新たな業種が加わっていく可能性は十分に考えられます。現時点で対象でない業種についても、今後の流れに注視していくことをおすすめします。